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 ■[ Books ] 2006/04/02 [ Sun ]



☆ベルセルク 30巻 [ 三浦建太郎 ]
ベルセルク

待ちに待ったベルセルク30巻。

今回は久々に盛り上がった。ここんとこ物語の過渡期と言った感じで全体の流れを描きつつ主人公チームの中の出来事を描いてこれからの展開の足固めをしてると言った印象が強くて物語がそれほど盛り上がることは無かった気がします。けど今回の30巻あたりから徐々に盛り上がりつつあるのでとても楽しく読めました。ガッツが普通にカッコイイ!

この漫画は先を焦っても面白くなくなるだけだと思うので作者の人にはじっくり書いて欲しい気持ちもあるんだけどやっぱりファンとして早く先が見たくもあるね。これだけ多くの登場人物がいて、この期に及んでまだ新キャラが増えて、ずっと前からの謎がまだ沢山あるのに、さらに謎が増えていくという展開を見てるとちょっと心配になるけど、不思議とグダグダにはなってない。それはやぱり時間をかけてじっくり描いているからなんだろう。だから我慢してゆっくりコミックスの発売を追いかけていきます。

このレベルの作品ってホント少ないのでまだまだ目が離せません。
テーブル下


 ■[ Books ] 2006/06/25 [ Sun ]



☆ダヴィンチ・コード 上中下巻 [ ダン・ブラウン ]
ダヴィンチコード

今映画が上映中の話題の小説。

通勤のときに地道に読んでいてやっと先日読み終わりました。文庫本で上中下とかなりのボリューム。内容はキリスト教の秘められた謎を追って展開されるサスペンス。冒頭で殺される人物が死の間際に残した暗号を解きながらキリスト教の歴史を覆すかもしれない秘密を主人公が探し回るというお話。

いやー。ぜんぜん面白くなかったです。この小説の肝はキリスト教やそれに関連した美術や歴史を独自の『新説』によって新たに解釈し直しながら、数多くの薀蓄(ウソかホントかしらんけど)を語る部分にあると思います。

物語はたった一晩くらいの間の出来事を描いているに過ぎず、大したもんじゃありません。純粋なサスペンスとして見ると非常に平凡な展開で面白くもなんともない。けど、本作がこれほどまでにヒットしたのはやはりその肉付け部分がとても興味深かったからでしょう。

キリスト教の真実というデリケートな話題を中心に持ってきて、それを強引な『新説』で語り、それにおける現在の事実を根底から覆してしまおうというインチキ薀蓄の数々がわかり易い神秘性を感じさせたからじゃないかしら。本作はサスペンス部分よりも薀蓄を延々語る部分の方が文章量としても圧倒的に多いから、薀蓄の方に比重が置かれているのは明らか。

で、そのキリスト教の新事実にまつわる薀蓄部分が心底どうでもいいと感じてしまう俺みたいな人がこの本を読んでも『それってそんなに大騒ぎすることなん?』と白けてしまうばかりなんです。イエス・キリストが実は・・・・とか言われても『ふーん』で終わってしまう。

本作に登場する人々はとにかく必死でそのキリスト教の新事実を探しだそうとしていて、しかもその為に人が何人も死んだりします。けど、俺みたいに宗教にまったく興味の無い人が見ると『この人たちはなんでこんなどうでもいいことに必死なんだ?』と感じてしまうんですよね。

それはまるでUFOや雪男の存在を真顔で語ってしまう人々を失笑しながら眺めているような感覚。登場人物が必死になればなるほど、その行動が滑稽に見えてしまう。それで俺は最後まで盛り上がることなく読み終わってしまいました。

このダヴィンチ・コードはキリスト教と文化が密接に関連している国の人々が読むと非常に大胆で刺激的な小説なのかもしれないけれど、あまりキリスト教と縁が無い日本人が読んでもピンと来ないってのが実情だったりする気がします。

そんなわけで、かなり時間をかけて一生懸命読んだけど個人的にはちょっとダメでしたコレ。
テーブル下


 ■[ Books ] 2006/07/05 [ Wed ]



☆なぜ、占い師は信用されるのか [ 石井裕之 ]
なぜ、占い師は信用されるのか?

かなり前に読了したのに今まで感想を書き損ねてました。話術や心理術におけるテクニックを紹介した読み物です。作者の石井氏はテレビでもたまに見かけますね。本書では占い師などが自分を相手に信用させる際に使う対人テクニックを丁寧に解説してくれています。

実際にそれが使えるテクなのかどうかは別としても、読み物として非常に楽しく読めるような文章で書かれているのであっという間に読み終わりました。この人はとてもわかりやすくて魅力のある文章を書く人だと思います。

本書で紹介されているテクニックそのものも興味深いものが多く、試してみたくなるものばかりなのですが、それが単なるマニュアルになっているのではなく、『読み物』として楽しく読めるように書かれていることが本書の大きな魅力だと感じました。

この手の本は星の数ほど出版されているけれど、読み物として魅力のある文章でないとやっぱり途中で読むのが面倒くさくなるんですよね。だけれど、本書は最後までとても楽しく読むことが出来ましたよ。こういう読みやすい本は通勤通学の電車の中で読むには丁度いいね。
テーブル下


 ■[ Books ] 2006/07/05 [ Wed ]



☆変身 [ 東野圭吾 ]
変身

いやー。これは面白かった!

平凡な青年がある事件に巻き込まれて頭を銃で撃たれるも、脳の移植手術によって奇跡的に回復。しかし、青年は脳の提供者のものと思われる別の性格にじわじわと支配されはじめる。一体ドナーは誰なのか。そして青年は自分自身を失ってしまうのか。という感じの物語です。

ドナーが誰かというのは序盤の段階で見当がつきます。そこから少し読み進むと『見当』が『確信』に変わります。つまり謎が簡単に先読み出来てしまう。けれど、本作ではそこがミソなんですよね。あえて見当がつくように書かれているんです。

誰がドナーなのか、という犯人探しの要素は本作のメインテーマではないのです。ドナーが誰なのかという謎の部分はあくまでも読者を本作のメインテーマに引き込む為のキッカケに過ぎない。あえて謎を先読みさせて、『予想通り』の答えを用意し、そこから先に興味を持たせるように仕向けている。ものすごく計算して物語が作られています。

主人公である成瀬純一は脳の移植手術のあと、どんどん性格が変わっていきますが、脳の提供者にのっとられるというのとはちょっとニュアンスが違います。成瀬純一という人物の『性格』が変わっていくだけです。彼はその性格の変貌に自分自身も気づきます。

以前とは違う考え方や行動をしてしまう自分に気づき、それを不本意に思う部分があるにもかかわらず、心の奥底にある『本音』の部分が変わっていく自分に愕然とし、どうにか食い止められないかともがき苦しみます。そんな彼を通して、自分自身とは何か、自分らしさとは何か、生きるとは何かを問うのが本作のメインテーマです。

ラストは非常に切ないモノですが、何故か後味はそんなに悪くない。非常に複雑な心境にさせられつつも何処かで『これで良かったのかもな』と思わせてくれる。本作は最初から最後まで完璧に計算されて書かれた傑作だと思います。

ちなみに本作は映画化されてるけどそっちの出来はどーなんだろーなー。原作がこれだけ完璧だと見るのが怖いなぁ。
テーブル下


 ■[ Books ] 2006/07/26 [ Wed ]



☆龍は眠る [ 宮部みゆき ]
龍は眠る

これの前に読んでた東野圭吾の『変身』に引き続きこれもまた面白かった! 最近読んだ本はダヴィンチコードがダメだっただけでそれ以外は当たりが続いてるのでうれしいです。

本作は『模倣犯』、『ブレイブストーリー』でおなじみの売れっ子作家、宮部みゆきのかなり前の作品です(1993年)。物語は超能力を持っている少年二人の苦悩を雑誌の編集者である高坂という男の視点を通して描いた作品。

物語の序盤で『サイキック』だの『サイコメトリー』だのという言葉が出てきて一瞬読むのを止めようかと思ったんだけど、登場人物の心理描写の巧みさ、物語の組み立て方の巧みさによりすんなり世界に引き込まれてしまいました。そしてそのまま最後まで飽きずに楽しんで読めました。

この作品において超能力を持った二人の少年は決してヒーローではありません。彼らが持っている超能力は人の心を読むという能力です。そして聞きたくなくても相手の本音が聞こえてしまうことの恐ろしさに苦しみながら生きている弱い存在。

一人はその力を人の役に立てたいと考えていて積極的に行動しようとしていますが、もう一人は逆に自分の特殊な力の危険性に怯えながら出来る限り人と関わることを避け、その力の存在を隠そうとしています。

とてもウマいなと思ったのはその二人の対比の仕方と心理描写です。超能力という非現実的なモノを題材にしながらも、地に足の着いた表現力を駆使してリアリティーを失うことなく二人の超能力者の心理を描ききっています。

本作において語りべの役割を果たしているのは高坂という雑誌記者。彼の目を通して語られる二人の対称的な少年の心理描写に加え、その高坂自身の心理描写も秀逸。さらに高坂と少年二人が徐々に巻き込まれていくある事件の描き方も非常にうまい。

その事件の犯人は『予想通り』の人物ではあるのだけど、複数の人物がかかわるその事件を通して主要人物の心理が複雑に絡み合い破綻することなくラストでしっかり収束する。とにかく描き方がうまいので超能力というSF的な題材を持ってきているのに凄く現実味を感じるんですよね。

本作は10年以上前の作品だけれど今からでも多くの人に読んでもらいたいと思う傑作小説だと思います。これは本当に面白い。
テーブル下


 ■[ Books ] 2006/08/20 [ Sun ]



☆流星ワゴン [ 重松 清 ]
流星ワゴン

頭っからまるっきりファンタジーな家族愛小説。すべてがどうでも良くなって、もう死んでしまっても良いかなと考えている38歳の男の前に赤いオデッセイが現れます。そこには過去に事故で死んだ親子が乗っていて、彼らはそのオデッセイに男を乗せて過去の世界に連れて行きます。

そこには現実の世界ではガンで死を目前にしているはずの男の父親が男と同じ38歳の姿で現れます。そして男は自分の過去にもう一度向き合い、自分と同じ年の父親と関わることで何を見出していくのか・・・・という感じの物語。

いきなりの『あり得ない』展開に唖然としつつも読み進めていくとこれが意外と面白くとても心に沁みました。とてつもなく現実離れしたファンタジーの形態をとりながらも、現実的な共感を得られる物語に仕上げているのは凄いと思います。最終的に男が行き着くのは劇的なラストではありませんが、それが非常に心に染みる。なかなか良いお話だと思います。

ただ個人的に気になったのは具体的過ぎるエロ描写。物語の中で何度か出てくるセックスシーンが妙に具体的で官能小説かと思うような表現が多く使われているのが凄くイヤでした。なんとなく全体のテイストにそのエロ描写が馴染んでいなくて浮いているんです。そこだけはマイナスポイントでした。

けど物語の主題はとても好きですね。
テーブル下


 ■[ Books ] 2006/09/16 [ Sat ]



☆火車 [ 宮部みゆき ]
火車

クレジットカードによる自己破産やローン地獄による家庭崩壊に翻弄され続けた一人の女性の人生を追った物語。その女性は和也という男と婚約をしていたのだけれど、彼女がクレジットカードを作る際に過去に自己破産をしていたことが発覚してしまいます。それを境に彼女は突然姿を消してしまいます。

全く予想していなかった出来事に慌てた和也は親戚の現役刑事『本間』に彼女の捜索を依頼します。ただし、本間は現在、ある事件で負った怪我の療養のため休職中。和也は警察という組織としてではなく本間個人に彼女の捜索を依頼したのです。

本間も根っからの行動派刑事であるため、ただじっと怪我の療養をしていることが出来ず、その出来事にもなんとなく興味をひかれたため和也の頼みを聞き入れ捜索をはじめます。そして徐々に明らかになっていく彼女の秘密。はたして彼女はなぜ姿を消したのか。彼女はそれまでどういう人生を歩んできたのか。本間が彼女の人生の軌跡を丁寧に追っていき、ついに彼女の行方にせまっていく。

本作は宮部氏らしい実に丁寧で堅実な描写によって一人の姿無き女性の人生をしっかりと描き出していきます。ただし本人ではなくその周辺の人々や出来事を本間という休職中の刑事が追う形で。そこが非常に面白いところ。推理モノに多い本人が自らタネ明かしをするタイプの物語ではありません。こういうのってなかなか無いんじゃないかな。面白い。

そしてラスト部分。ここも『そう終わるのか!そこで終わるのかー!』という驚きが強いです。だだしそこが原因で本作は評価が大きくわかれているようですね。『消化不良』と捉える人も少なくないようです。俺も最初はびっくりした。ええーーー!って声に出すくらいびっくりした。けど、あとで物語を思い起こしてみるとこれはこれでアリだなと思えました。不満は無いですね。やはりラストに至るまでの濃厚な物語があるからこそそう思えたんだと思います。

本作hは割りとふるい作品なので携帯電話が特別な高級品として描かれていたりするし、時代背景も今とは違っている部分がありますが、それでも今読んでも十分楽しめる作品だと思います。宮部みゆき作品の入り口として良いんじゃないかな。
テーブル下


 ■[ Books ] 2006/09/16 [ Sat ]



☆夏の庭 [ 湯本 香樹実 ]
夏の庭

幼い日に感じた懐かしい夏休み独特の空気に包み込まれる感触。そんな雰囲気が終始ただよっている作品。その空気が読んでいて心地よく、なかなか楽しめました。とても短いのですぐに読み終わっちゃうから読み終わった後の充実感はあまり感じないですが、物語の方向性は非常に好きです。緊迫感のあるサスペンスなんかも好きだけどこういうのも良いね。

本作は全くタイプの違う小学校6年生仲良し3人組の小学校生活最後の夏休みを描いた物語。ある日、3人の中のひとりであるデブの山下がおばあちゃんの葬式に出席。そこで生まれて初めて死んだ人間を目にします。その話を聞いた他の2人は子供ならではの好奇心から自分も死んだ人間を見てみたいと言い出します。

そんな中、少年たちはあることを思い出します。それは近所に一人暮らしをしている生気のないおじいさん。近所の人たちは『あのじいさんはもうすぐ死ぬ』なんて噂までしている。そして三人の中の一人である河辺が『あのじいさんを見張っていれば死んでいるところを見ることが出来るかもしれない』と言い出します。そしてその河辺に引っ張られ、今にも死にそうなじいさんを監視する日々がはじまります。

しかし、そのじいさんは監視を続ければ続けるほど逆に元気になっていき、ついには少年たちとも直接交流するようになっていきます。そして夏休みが終わりおじいさんと少年たちは・・・・・・・という感じで話が進みます。設定と大まかな流れを知っただけで結末がどういう方向に進むのかはほとんどの人がわかると思います。ただ、そこに至るまでに少年たちが何を感じ、何を得たのか。おじいさんの人生はどんなものだったのか。この手の物語はそこが大事なわけですよね。

本作はそういう部分を大げさになり過ぎない控えめな描写で淡々と描いています。ラストも何か劇的なものがあるわけじゃない。さあ泣け!という押し付けがましさはほとんど無い。それが良いんです。あの懐かしい幼き日の夏休みの香りと、素朴な物語が素直に心に染みる。素朴な3人の少年達が何かを教えてくれる。

この『夏の庭』はとってもステキな物語だと思いました。
テーブル下


 ■[ Books ] 2006/09/16 [ Sat ]



☆赤い指 [ 東野 圭吾 ]
赤い指

直木賞受賞後一作目。この人の作品で読了しているのは『変身』だけです。『変身』はボリュームがあり描写も請っていたので、読後には濃厚な物語だったという印象を持ちました。しかし本作は非常にあっさりした印象。描写も軽めでとても読みやすい。

物語そのものも事件発生から解決までの道のりはかなり短くあっさりとしたものです。もっともっと話を膨らませることは出来たと思う。けど、本作ではあえてそれをせず、テーマをシンプルかつストレートに表現しています。

サクサク読めてわかりやすいこの物語をどう捕らえるかによって評価がかなり分かれそうですね。あっさりし過ぎと捕らえるか、わかりやすくて良いと捕らえるか。そこら辺は完全に好みの問題でしょう。

物語のさわりはこんな風。自分の殻に閉じこもった中学生の息子一人、認知症の母親、そして心の通わない妻と暮す平凡な男が、幼女趣味のある息子が起こした幼女殺人によって人生を大きく狂わされる。刑事の捜査の手が迫る中、一家は一体どうなっていくのか。

本編は刑事側と犯人側との様子が交互に描かれていき、それぞれの描写視点は刑事側を描くときは新米刑事『松宮』の視点で、犯人側を描くときは一家の主である『昭夫』の視点で描かれていきます。その辺はなかなか巧みだと思いました。違う立場の人物がそれぞれ二方面から同じ出来事を見ているというのはなかなか面白い。

展開は非常にテンポがよく素直に先が気になります。あっさりとした描写ながらも登場人物の性格や考え方がしっかり伝わってくるのも良い。自己中心的な考え方しか出来ない妻の言動や、それに振り回されていく昭夫、どうにもクズとしか言いようの無い息子、そして刑事側視点での新米刑事とやり手刑事の対比。重たいテーマを選んでいるのに読むのが煩わしくならないように軽快に描いている点が本作の魅力でしょう。

基本的にはとても面白く読めたのですが、ちょーっと設定に無理があるかなーと思う部分も多々あります。それは終盤で明らかになる犯人側の秘密と、やはり終盤でわかるやり手刑事の家庭の事情の部分。その二つが本作の肝であるのにそれ自体がちょっと苦しい設定。

ネタばれにならないように書くと前者は『だからって現実的に考えてそんなことするかなぁ・・・。』という感じだし、後者の方も『だからってそんなこと望むかなぁ・・・。』という感じなんです。この書き方で読んだ人はどこを指してるかわかると思うけど、未読のひとはわからんねこれじゃ。まー気になる人は読んでみてよ。

本作は面白いことは面白いんだけど、もうちょっと説得力のあるオチが欲しかったなぁという感じでしたね個人的には。なんかこう惜しい作品。
テーブル下


 ■[ Books ] 2006/09/26 [ Tue ]



☆時 生(トキオ) [ 東野 圭吾 ]
時生

泣きました。かなり。

このサイトで感想を載せている本はダヴィンチコード以外はとても面白いものが多く満足して読み終えているんですが、読んでいて本気で泣いたのは初です。この物語はとてもいい。本当にいい。どうやらNHKでドラマ化されていたらしいけどそっちは見たことも聞いたこともなかったので何の予備知識も無く読み始められたのも良かったな。

この物語は遺伝性の難病の息子の死を目前にしている宮本拓美とその妻麗子が病院でその息子である時生(トキオ)を見つめているところからはじまります。冒頭から重たい雰囲気。時生の病気は生まれる前からわかっていたものです。なぜなら母親である麗子が遺伝性の病気を持っていたからです。そのことは彼女自身も知っていました。彼女は遺伝によって受け継がれてしまう病気を持った家系の人間で、その昔、その病気の検査を家族にすすめられて受けていました。

ではなぜ彼女自身は元気なのか。それは女性がその病気の元となる遺伝子を持っていてもほとんど発症しない病気だからです。しかし、男性の場合は100%ではないにしろかなり高い確率で発症してしまう病気なのです。時生は男性です。恐れていたとおり成長するにつれて病気を発症してしまったわけです。

最初は子供を生まずに結婚生活を送るつもりでした。しかし、避妊を油断したときに子供が出来てしまった。そこで彼女は泣く泣くおろすことを提案しますが夫である拓美が産もうと強く希望し結局生むことになります。しかし、やはり遺伝性の病気は息子の時生に受け継がれてしまい、徐々にその症状が出始めてしまいます。そして物語の冒頭。時生は死を目前にして病院のベッドに横たわっています。

拓美が若き日に出会ったひとりの青年のことを妻に話し始めます。なんと、彼が出会ったその青年は現在、目の前で横たわっている時生だと言うのです。本作はほぼ全編がその若き日の拓美と彼が出会ったという青年の話になっています。つまり、本編のほとんどが拓美が過去を振り返った回想シーンなのです。そこで時生は拓美に何を伝えたかったのか。それは読んでのお楽しみ。

本作の良いところは、重たい雰囲気なのは冒頭だけで後は決して重くない軽快な展開になっているところだと思います。とても悲しくて切ない『中心人物の死』が最初から確定している物語であるにも関わらず、決してジメジメした展開になっていない。

若き日の拓美の恋人(時生の母親とは別の人)の失踪を時生とともに追うという展開を軸にしつつ結構な活劇だったりします。その中で、拓美自身が自分の生まれてきた意味を見出していく様と、冒頭から死が確定している時生が今まで生きてきたことへの思いを語る様が見事にシンクロしていきます。その辺はウマイよなぁ。

拓美、時生はもちろんだけれど、脇を固める登場人物のキャラが立っている点も素晴らしい。面白い物語には主人公以外にも魅力的な登場人物が沢山出てきますよね。本作も例に漏れない感じです。

ただ、この物語は非常に漫画っぽい。そこをどう感じるかによって感情移入の度合いが変わってくるんじゃないかな。キャラクターの描き分け方も妙にハッキリしていてわかり易い部分が漫画っぽいし、物語の設定や展開、テンポなんかも非常に漫画的。リアリティー溢れる物語とはちょっと言い難い。けど、それが本作を面白くしている部分でもあるのでやっぱり好みの問題なんだろうな。俺は好きですこういうの。

ドラマってどんな感じだったんだろ。ちょっと興味アリ。
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