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この映画はバッチリDVD持ってます。マジ好きです。黒澤映画です。三船敏郎です。侍です。血しぶきです。ということで熱く語ります。いやー、ホント、この映画は良くできてるんだよ。
本作は大ヒットした用心棒の続編的な位置づけの作品。物語が直接的につながっているわけではないのだけど用心棒で主人公だった三船敏郎演じる『三十郎』が主人公。素浪人の三十郎が旅の途中に立ち寄った町でのエピソードその1が用心棒で、その2がこの椿三十郎といった具合。
用心棒と同様に、三十郎は旅の道中で出会った自分とは何の関係も無い連中のお節介を焼いて、ある事件に自分から首を突っ込み、悪いヤツを退治するというお話。今回、三十郎が手を貸す連中は、なんとも頼りないマジメな9人の若侍たちです。若侍たちが何やら相談しているのを偶然聞いてしまった三十郎は、その余りの頼り無さに思わず口を挟み、そのまま彼らの手助けをしてしまいます。そして、お節介焼きの彼は彼らを放っておくことが出来ず、結局最後まで協力していきます。
でも、彼は単純に『正義感が強いカッコイイ侍』という感じで描かれていない。それがこの作品の面白いところなんです。用心棒もそうだったけど、この三十郎という男はやる気があるんだか無いんだかわからないんですよ。自分から首を突っ込んでおいて、ダルそうにしてる時もあれば、目を輝かしているときもある。彼の行動を総合的に見て感じたのは『この男は厄介事を面白がっている』ということ。一言で言うと少年のような好奇心と天邪鬼な性格、人としての正義感、そして男としての豪快さを全て持ったような男なんです。ダルそうにしているのは心底ダルいのではなくて、その子供のような無邪気さを隠す為の行動のように見えるし、自分の正義感を照れ隠ししているようにも見える。
あと、彼はめっちゃ口が悪いのだけど、それも同様に照れ隠しに見えるのよね。実際、口の悪さに関しては劇中で『あの人は気持ちと逆のことを言う癖があるんだ』なんていうことを明確に指摘している人物がいたりします。本作は前作の用心棒よりも三十郎というキャラクターをより魅力的に、より明快に描いていて、『三十郎』というキャラクターをより前面に出した作風という印象が強いです。だから、この男を好きになれるかどうかによって本作の評価はかなり変わってくるんじゃないかしら。
こう書くとストーリーの方は大したことが無いと思われそうだけれど、決してそんなことは無く、俺としては用心棒よりも本作のストーリーの方がずっと好きです。非常にコメディー色が強く、生と死の狭間で戦うというような緊迫感はありませんが、三十郎というキャラクターの魅力を最大限に引き立てるような素晴らしいストーリー構成になっています。
先ほども書いたように本作はコメディー色が非常に強いので全体を通して激しい殺陣シーンは殆どありません。むしろそこには重きを置いていません。物語をバシっとしめるためにラストには大きな見せ場となる一対一の決闘シーンが用意されていますが、それ以外はハラハラする部分は無いんですよ。つまり、本作のメインテーマは三十郎の侍としての強さの部分には存在していないということです。少年のような好奇心を持った三十郎は今までずっと自由気ままに生きてきたわけですが、本作ではそこにちょっとした問題定義をする人物が現れます。それが三十郎と若侍たちが物語の途中で助けた城代の奥方とその娘さん。
三十郎の豪快なやり方に奥方は『そんな乱暴なことをしてはいけませんよう』と言い、『むやみやたらに人を斬るのは良くない』と言い、さらには『あなたはギラギラしていてまるで抜き身の刀のよう。あなたは強いけれど、本当に良い刀はさやに収まっているもの』と言います。奥方の説教に三十郎は微妙な表情を浮かべ、表面上は『めんどうくせえなあ』みたいな態度を取るのだけれど、三船敏郎の絶妙の演技により、『胸にチクチクする鋭いことを言われて何とも言いがたい』という彼の心情を見事に表現しています。
三十郎はそんなことから奥方に対して『(頭が)足りねえのさ!』という暴言を言い放ったりもしますが、それがまた『口の悪さによって本当の心情を誤魔化す』という彼の天邪鬼な性格をよく表していて面白いのです。つまりのところ奥方の説教が正論であり、的を得たことを言っているのを誰よりも理解しているのは三十郎本人であり、口では『足りねえのさ』と言いながら奥方には尊敬の念を抱いているんですよね。
それを明確に表現している場面が、若侍たちが勝手な行動をとりその尻拭いをするために人を斬るハメなった三十郎が凄い勢いで若侍たちを平手打ちをしながら『余計な殺生しちまったじゃねえか!』と叫ぶところ。そのように奥方が彼にする説教と、それによって問題提起をされてしまった三十郎の複雑な心境の描写がラストシーンへの伏線となって見事に機能し、あの強烈な決闘シーンを盛り上げ、去り際に三十郎が若侍たちにいうセリフに重みを持たせています。
血が大量に吹き出るあの決闘シーンはそれ単体でも充分なインパクトがあるモノですが、それだけでなく、そこに至るまでにしっかりとした伏線が張られているからこそ活きて来るモノだし、本作ではそれが押さえられていて、本当によく計算して物語を構築していると思いましたね。最後の最後に奥方に言われたことを明確に認めた上でその教訓を乱暴な言葉で若侍たちに言い残して去っていく三十郎という男は、『単なる正義感溢れる剣豪』ではなく、『感情を持ったひとりの人間』なのです。たった90分ちょっとの映画の中で、三十郎というキャラクターを見事に『人間臭い人間』として描くことに成功しているのです。
この映画の大きな魅力は、勧善懲悪な痛快なストーリーの中で活躍する三十郎という男の『人間らしさ』にあると思います。時代劇というと多くの悪党をバッサバッサと斬り捨てていく殺陣シーンばかりが重視され勝ちですが、この映画においてはそれよりも三十郎のもつ『人間臭さ』の描き方に注目して観てほしいと思います。
三十郎に『悪党を容赦無く斬り捨てるヒーロー』を期待して本作を観ると肩透かしを食らうことは間違いないですが、『コメディー色が強い』ということと『殺陣シーンはメインテーマでは無い』というのを踏まえた上で、三十郎というキャラクターと、ラストへ向けての伏線の張り方、そしてその伏線があるからこそ活きている決闘シーンに注目して観れば多くの人が楽しめる映画だと思いますよ。
一般的には、どちらかというと用心棒の方が有名だし評価が高いような気がするんだけど、俺はこっちの方がよく出来てると思うなあ。 |
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