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僕は手探りで暗闇を這いまわっている。
所々に細い光が差し込んでいるのが見える。
僕はその光にすがるように近づき、そして掴もうとした。
しかし手を伸ばした瞬間、光はすっと消えてしまった。
僕は何度こんな事を繰り返してきただろう。
僕が暗闇に見た光は殆どが幻で、掴もうとすると消えてしまう。
こんな何も見えない暗闇でもあの男だけは現れる。
男はいつでも現れる。どこにでも現れる。
男はいつも僕に問いかけをする。
だけれど答えは決して教えてくれない。
もちろん僕が求める光の場所にも決して案内してはくれない。
男は光の在り処を確実に知っている様子なのに、決して案内はしてくれない。必ず不敵な笑いを浮かべながら僕に何かを問いかけて消えてしまうんだ。
僕は悲しくなってしばらく暗闇でじっとしていた。
すると男が突然暗闇に浮かび上がってきた。
『やあ。光かい? 光を探しているのかい? 光の在り処を私にききたいようだがそれは無理な相談だ。だってそうだろう? 私は・・・・』
そこまで言うと男は消えてしまった。
やっぱりだ。いつもと同じ。結局あの男は何も教えてくれない。
僕は仕方なく再び暗闇を手探りで這いまわり始めた。
相変わらず僕の目の前はまっくら闇だけど、前方に何かがいる気配がした。姿は見えないが間違いなく誰かがいる。
僕は息を飲んで少しずつそれに近づいた。
あれ?
なんだかほっとする。それに近づくにつれて何故か不思議な安心感が僕を包んでいった。
それはもう僕の目の前にいる。だけれど暗くてよく見えない。目をこらしてじっとそれを見詰めると。
僕が知っている顔だ。
昔何処かで会った事のある人間だ。
彼は微笑んで僕にこう言った。
『やあ。キミはずっとここにいるのかい? いつから? この暗闇が何か気づいているかい? それに気づかなければキミはずっとこの暗闇から抜け出せないよ。』
僕は思った。
こいつもあの男と同じじゃないか。結局なにも教えてくれない。
僕が黙って彼の顔をじっと見ていると彼はこう言った。
『まあいい。これをキミにあげる。これを見てこの暗闇が何か少し考えれば良い。そうすればきっとキミにもわかる。』
そして彼は僕に手を差し出した。
彼の手のひらには小さな光の玉があった。
僕はそれをそっと受け取りしばらくそれを見ていた。
顔をあげると彼の姿はもう無かった。
光だ。僕が一人で必死に探し回った光がここにある。
これは幻ではなく本物の光だ。
するとその光の玉が僕の視界を少し広げてくれた。
少し広がった視界を見渡してみる。
僕は今までこの暗闇には何も無いと思っていたが、そんな事は無かった。僕が今まで出会った人々の姿がうっすらと見える。
そうか・・・・・と思った。
僕はこの闇の意味を少し理解した。
この闇は僕自身が創り出した闇。
この闇は僕一人じゃ抜け出せない闇。
僕は弱い人間だ。
だからこそこの闇が創られた。
そして一人で這い回っていた。
この闇に迷い込んでしまった時はいくら這い回っても同じことの繰り返し。
僕は弱い人間だ。
僕は彼がくれたこの光の玉に救われた。
そしてもっと誰かからこの光の玉を譲ってもらわなければ、僕はこの闇から抜け出せないだろう。
この闇はそういうものだ。
僕は人間。
弱い弱い人間。
だけれど、この光の玉があればなんとかなる。そう思えた。
それに。
僕自身も元々光の玉を持っているという事に気がついた。
僕の為ではなく、誰かに渡す為に持っている光の玉を。
僕はもう。
この暗闇は怖くない。 |
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