topimg
メッキ


table     table



ネットという仮想空間には様々なモノが存在する。商売。自己アピール。趣味。情報。悪意。善意。様々なものが氾濫し、時に何が真実で、何が偽りか、分からなくなる時がある。


そしてそこには人間関係というヤツも確かに存在している。そこが実に厄介な所だ。ネット上においての人間関係は匿名性が強い。だからこそ現実空間では分からない人間の裏の部分が浮き彫りにされる事が少なくない。


ちょっとここで誤解を生む前に言葉の定義をしておこう。ここでいう『現実空間』というのは単純に『生身の人間』という固体同士でのつき会いの事をさすという事にする。そして『仮想空間』という言葉や『ネット上』などの言葉は単純に『インターネットというのは固体が存在しないデータというもののやりとりであるが感覚的にインターネットという空間が存在するかのような感覚』を指して『仮想空間』という言葉を用いている。


つまり『仮想』と言っても間違い無く人間同士のやりとりなわけで、それはそれで現実でのやり取りであり、だからこそ人間関係が成立すると俺は思っているわけだ。相手の顔が見えなくてもネット通じて意見や情報を発信しているのはまぐれもなく人間なわけで、ネットと現実は別世界だなんてことは思っていない。それは当たり前の事だが、中にはネットは現実ではないと言ってしまえる人がいるようなので前提として注意しておいてもらいたい。


つまりここでのそれらの言葉の使い分けは現実と非現実という事を表しているのではなく、インターネットという道具を使ってのコミュニケーションの特徴と生身の体をさらしてのコミュニケーションの特徴との区別をあらわしていると思っていただきたい。


では、本題に戻ろう。


俺がやっているこの小さな個人サイトでも匿名性が高い故に感じ取ることの出来る人間の裏の部分がある。匿名でメッセージを送る事のできるメールフォームで、無責任な発言をして姿をくらます者や、掲示板を荒らして去ってゆく者にそれが垣間見える。


俺はそのような事をする彼らは果たして現実空間ではどのように振舞っているのだろうと考えた。自分が置かれた空間に存在する様々な人々との関係。学校の先輩や後輩、友人、職場の上司、そして家族。彼らはそのような人々に普段どのように接しているのだろうか。


もちろん俺には具体的に分かるはずも無いし、考えるのも無意味かもしれないが、あえて考えてみた。俺が思うに彼らは実際の生活の中で、正面きって他人を罵倒したり嫌がらせをしたりはしないだろう。


自分の置かれた空間に自分の居場所を確保するために、メッキで身を覆っててでも、上手くやり過ごそうとするだろう。なぜならそれは自分という固体が確かにそこに存在しているからに他ならない。ネットはあくまで仮想空間であり、自分がその世界をうろつくためには自分という固体は必要無い。匿名性を盾にすれば完全に自分を隠す事が出来る。


そこで人間の本質が垣間見える。


仮に自分の軽薄な発言が元でネット上から迫害されたとしても、いとも簡単に別人になり、再び舞い戻ってくる事が出来る。いくらでもやり直しがきく。だが現実空間ではそうもいかない。一度自分の居場所を失ってしまうと、なかなか立ち直る事は難しいだろう。だからメッキで覆われた姿で上手くやり過ごす。ネットではそれが必要ないために、なんだって出来てしまう。それを抑えるのは、その人の良心に全てが託されているわけだ。


バレなければ良い。その幼稚な思考に自分自身で虚しさや悲しさを感じることが出来ない人間が無責任な発言をしたり、嫌がらせをしたりする。そこで、さらに考えた。俺の周りの知人、友人たちはどうなのか。そして俺自身はどうなのか。俺は今までそういったネットでの匿名性を盾にした無責任な発言や行動を取った事が無い。なにより自分が悲しくなるからそうした事が出来ない。


では俺の周りにいる友人達はどうだろうか。俺には皆目わからない。


でも、もし俺が信用している人物はメッキで覆われた人間で、他人には見せないドス黒いモノが心の奥底にねっむっていたら・・・そう考えると怖くなった。掲示板を荒らしたりするような人間も、恐らくは現実世界ではそれなりに上手く渡り歩いているに違いないのだから。


なんだか話が大げさになったが、匿名性というものは現実空間ではなかなか活躍する機会が少ない。だから直接の知り合いや同じ空間にいる人たちは上手くやっているのかもしれないと思った。


もし、ネット上のように現実空間にも高い匿名性を行使できる何かがあったとしたら、いったいどうなるのだろう。自分の置かれた空間で完全に身を隠せる何かがあったらどうなるのだろう。そしてたとえそれがバレてしまったとしても、ネット上のようにすぐに別人になれてしまうとしたらどうなるのだろう。


俺は、それでも人間の美しい部分だけが見える事を望む。そうあって欲しいと願う。今まで通り、皆上手くやっていける事を望む。でも、その反面、それまで見えなかった汚いものが流れ出してくる可能性に恐怖する。



table     table
□■BACK■□HOME■□