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音楽シーンの是非


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音楽を熱心に聴くような人達の間では日本の音楽シーンの是非を論ずるって事がしばしば行われているのを目にします。そういうの見ると『今更何いってんだ』って気がしてしまうんだよね。


そりゃ、今売れてるドラゴンなんとかのライフ・ゴーズなんとかって曲は、なんとかファクトリーの、 アイ・ワナ・ビー・ウィズなんとかっていう曲とサビのメロが全くおんなじ(似てるというレベルじゃなく本当に全くおんなじ)とか、なんとかサイケデリコのフリーなんとかって曲はシェリルなんとかのスウィートなんとかって曲にそっくりだとか、そういうのを実際に聴いちゃうとトホホな気分になるのは確かです。しかも『立派なアーティスト』ヅラしてるから正しくトホホ。俺もさすがにそういうのは気分悪く感じます。音楽シーンがどうとかいうレベルじゃなくその特定の人を指してお前らバカか、と思います。


でもシーン全体の是非となるとちょっと違って。


日本の音楽シーンはダメだとかいうのって、やっぱ今更何言ってんだって思うよ。日本の音楽シーンがダメな理由として挙げられるのがモーニング娘や浜崎あゆみ、ジャニーズ系の曲がチャートの上位を占めていて、本当に頑張っていい音楽を作ろうとしている『アーティスト』と呼べるような人達が売れにくいという事実を指していう事が多いと思うのだけど、チャートの上位に入るモノなんて日本では昔からそんなもんでしょう。


かつては国民的アイドルの天地真里なんてどう? 歌なんか酷いもんじゃん。ハッキリいって素人以下。でもあんなに売れたじゃん。ピンク・レディーは? 歌は大分巧いけど売れた大きな理由は曲が良いとか悪いとかそういう問題じゃない気がするんだけど。で、その時代だってそういうのに混ざって自分で曲も詩も書いて自分の意思でライブ活動していた人も存在してたわけだし、実際いい音楽作ってたのに売れずに消えていった人達だっているでしょう。


発表する側が『音楽』というモノを通して何をしようとしているかって部分とは無関係で、順位ってのはつけられてしまうのは昔から同じだし、多分これからも変わらない。単純に売るのを目的とした商品である曲とアーティスティックな部分を大事にした曲と実際は同じチャートで順位がついてしまうんだから、そりゃ商品として計算されたモノが上位に来ちゃうのは当然のことでしょ。


だってその商品としての楽曲を支持しているのは誰?


日本の音楽シーンの是非を論じちゃうような『熱心な音楽ファン』ではないんだよ。もっともっとライトなリスナー。CDショップに行って何か良いのないかしらと聴いた事も無いアーティストのCDをジャケ買いしたりするような人達じゃない。テレビで流れてた曲を聴いていれば充分に満足な人達。その人達の存在は音楽シーンにとって悪なのか? そうじゃないだろ。別にそんなん余計なお世話。音楽なんてモンは本人が楽しめるかどうかって部分が一番大事なんだからそれで良いでしょ。


で、日本全体を見渡したときに、割合としてはそういうライトなリスナーの方が圧倒的に多いわけで、浜崎あゆみやモーニング娘が売れて、自分のアーティスティックな部分を重視して曲を作っている人達が苦戦する傾向になってしまうのは至極自然なコトでしょう。


そこには子供たちだって混ざってる。ポケモンの主題歌が上位にずっと居座ってたりしたコトもあったでしょ。モーニング娘のコンサートやグッズショップに行くと子供たちが多いこと多いこと。そんな幅広い支持者をも取り込んだ曲が売れるのなんか別に不健全でもなんでもなく、至極普通のコトだと思うんだけどな。


で、前述したようなドラゴンなんとかの支持者だって、自覚は無いのかもしれないけど『濃い音楽ファン』ではないでしょ。ただ目の前の曲を聴いてカッコイイから満足。だから売れる。それが単純に音楽シーン全体が不健全かっていうと別にそんなことはない。そもそも商品としての楽曲とアーティスティックな存在の楽曲とが混ざり合った音楽チャートというモノがある以上は、商品音楽が売れるのは不健全だとかいうこと自体がナンセンスのような気がするんだよね。


つまり日本において(”日本において”ってのが重要。理由は後半読めばわかると思う)はチャートの上位に来るものが音楽シーンの是非を図る尺度にはなり得ないということですよ。浜崎あゆみが売れてるのを指してただ単純に『こんなのが売れる日本の音楽シーンは腐っている』なんていうのはそれこそそいつの頭が短絡的思考に支配された腐った脳みそだって思うんだけども。


それとは別の次元で音楽を作ってる人は日本にだって沢山いる。そういう音楽を支持する人達ってのはそのアーティストの曲だけでなく、そのアーティストのルーツやその周辺の音楽にも耳を傾けるし、自分独自の方法で情報収集をしてジャケ買いをしたりもする。でも実際チャートに入る曲の売上を支えるのはそういう人達じゃないんだから仕方ないんだよ。自分が濃い音楽ファンであるのを自称するのならむしろ、ご丁寧にシーン全体のコトやチャートの順位なんか気にしないで好きな音楽を自分で探して聴いてりゃいいじゃん。


日本の音楽シーンを是非を語っちゃうような人達の中には『俺はモーニング娘に熱を上げてるヤツらなんかよりよっぽど俺の方が音楽をわかってるんだぜアピール』をしたいだけのヤツも確実に多くいるとおもうよ。その感覚こそがむしろ音楽ファンとして腐ってるだろ。


子供たちが振付け覚えて楽しんだり、ファッションを真似したり、そういう次元での音楽と同列で『濃い音楽ファン』が支持する音楽を語るって結構恥かしいと思うのよね。子供たちが『わーい』って無邪気に買いに走ってる曲を指して大真面目に『あんなモノが売れるなんて日本の音楽シーンもダメになったな』なんつうのって滑稽じゃないですか。


じゃあ海外の音楽シーンではもっと色々な音楽が売れてるのに・・・なんていいだす人がいそうだけどさ。それだってナンセンスだっつうの。音楽チャートを賑わすようなロック、ヒップホップ、R&Bなんかはそもそも発祥の地が日本じゃないんだから、発祥の地であり、文化として深く根付いている海外と比べたって仕方ないでしょう。海外の人は深く根付いたモノとしてそれらの音楽をずっと自然に耳にしてきちゃったんだから、どうしたって後追いになる日本とは文化として既に次元が違うわけで。


だから海外では日本でいうところのライトなリスナー的位置付けの人達にもある程度はアーティスティックなモノを受け入れる土壌みたいなものが日本よりはずっと備わっているから日本よりも遥かに色々なモノが売れるってだけなんじゃないですかね。要するに売れるモノとアーティスティックなモノとのギャップが少なくとも日本よりは小さいってコトですよ。日本というロックやヒップホップやR&Bの本場ではない国ではやっぱりどうしようもない部分なんだよね。


それがイヤならお前は日本人やめろと。アメリカ人かイギリス人になれと。


そういう文化的な部分でのズレを無視して『日本の音楽シーンはダメだ』なんていったってその議論はなんにも意味をなさない気がするよ。じゃあ大負けに負けて日本の音楽シーンが腐ってるとしようじゃない。ではアイドルや似非アーティストが上位を占めるからダメだという日本の音楽シーンを治すためにはどうすりゃいい?


それは一般のライトなリスナーに海外と同等のレベルで土壌から築きなおさなきゃ変わっていかないし、現在の日本での音楽チャートの主流であるロックやヒップホップ、R&Bを手本とした音楽をここ日本を本場にしてしまうという世界的大改造計画を仕組むか、もしくはここ日本が既に本場である演歌なんかを音楽シーンの中心にしていくしかないんじゃないのかな。


でもそんなん無理でしょうが。


音楽シーンという大きな枠で音楽を語る場合は文化的土壌が違う日本と海外で同じようなシーンを期待するコト自体が既にナンセンスってコトなんじゃないのかしら。アメリカやイギリスにおいての音楽シーンと比べて、日本の音楽シーンはずっとずっと小規模だし、確かに未熟であるという事実はあると思います。


でもそれはチャートの上位をアイドルやパクリが占めてしまうのが原因ではなく、未熟であるのはそもそも健全とか不健全というレベルの話では無くて音楽そのものの文化的なズレや歴史の浅さに起因する問題。そんなコトから日本においてはアイドルやパクリがチャートの上位を占めるという現実と音楽シーンが腐っているか否かとはまた全く別次元の問題だと、俺は思うのです。


その文化的ズレや歴史の浅さってのは現実問題どうしようもないわけだしさ。


それでも日本の音楽シーンは腐ってるし、その原因はアイドルやパクリが売れる音楽市場にあるわけだし、そこを直していかなきゃダメだ!とか言い放つ人がいるのなら、モーニング娘のCDを買いに来た小学生の女の子や浜崎あゆみのコンサートに足を運ぶ女子高生の胸倉を掴んで『お前らがこんなモノを支持するから日本の音楽シーンはダメになるんだ!』って貴方が一生懸命教育して下さいよ。


がんばってね。



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