昨日、近所の映画館にてレイトショーで見てきました。攻殻機動隊の続編であるところのイノセンスです。続編であることを示すようなサブタイトルなどがついていないので、シリーズモノであるのを知らずに見に行って全く理解できずに玉砕してしまった人も結構いるみたいで、そういう人からは非常に評判が悪いみたい。
俺の感想をまず言ってしまうと『良くも悪くも予想通り』でした。今回のこの作品の監督を務めた押井守という人に対して特別リスペクトしているような感覚は俺には無いんだけど、前作や『人狼』の作風を見た上で『こんな感じなんじゃないかなあ』くらいの予想はしていました。『期待』じゃなくて『予想』ね。で、実際に見てみると見事にその通りの内容でした。
非常に渋く、ハードボイルドで、そしてイマイチ盛り上がり切らない。ハッキリ言っちゃえば痛快さに欠ける作風なんです。攻殻機動隊の原作は情報量が異常に多く、独特の世界観があるもののストーリーの流れや画風によって俺個人としては意外とアッケラカンとしている印象を持っているんですが、押井氏が関わると雰囲気が非常に渋く、当人の思想的なモノが盛り込まれて妙に小難しい感じになる。本作もそんな感じです。
非常に雰囲気があってカッコイイのですが、基礎となっている近未来の刑事モノという全体の流れを思想を語るための手段として使っているんですね。全体の流れだけを取り出してみると非常に単純な話です。古典的な刑事モノに過ぎません。まず事件発生。そして主人公が捜査開始。手がかりを見つけ事件の核心が見えてくる。そしてラストは犯人の本拠地に乗り込み、事件の真相がわかる。流れだけで言えば本当に単純でありきたりなモノです。
けど、何故かやたら難解だとか意味がわからなかったという意見が多い。前作を見てないとさっぱりわからないのは間違いないんで、続編なのを知らずに間違えて見ちゃった人の意見は別としても『わからない』、『難しい』という意見は多いです。登場人物が話すセリフには聖書や思想家の言葉を引用したモノがやたら多いので小難しくわかり難い感じがするのかもしれませんが、実際そんなに大した話じゃないですよコレ。刑事モノの古典形をベースにして、そこに監督の言おうとしていることを織り込んでいるだけなので全体の流れは意外とこじんまりしていて単純なんです。
魂だけで人は生きていると言えるのか? 生きるとは何か? 物理的に存在してはいるけど中身の無い人形、肉体を持ち魂もある人間、魂を入れておくために人工的に作った体を持っている人間、さらには魂だけの人間などを持ち出してそれらを対比しながら『生きるとは』、『人間とは』、『命とは』なんかを語ろうとしている映画です。
主人公のサイボーグ刑事『バトー』とコンビを組んでいるのは殆どがまだ生身の体の男。そして魂だけになっている前作の主人公『少佐』。さらに器だけの存在である『人形』。そんな風に上記のいくつかのタイプを刑事モノの古典形の上に配置して、わかり難いセリフで装飾し、押井氏がいわんとしているテーマをそこら中にバラバラの状態で散りばめて、見るものに対してそのバラバラのパーツを組み合わせさせる。ジグゾーパズルのようにね。
だから全体のストーリーの流れやテーマ自体が難しいんじゃくて、わざとバラバラにしてあるから難しいような気がしちゃうってだけなんですよね。完成しちゃえば非常に単純な話なんです。本作はその手法を好きか嫌いかで評価が大きく分かれる映画ではないでしょうか。俺の場合は、その手法自体は嫌いじゃないんですが、テーマが先にあって、それを語るための手段として後から刑事モノ古典形を持ってきている感じだから、全体の流れにキレが無くて、盛り上がりに欠ける部分に勿体無さを感じたのが正直なところです。
刑事モノの古典形を持ってくるのは良いですが、痛快さや盛り上がりの部分、つまりテーマだけが頭でっかちになってしまわないように全体の流れのオモシロさをも意識して作れば、エンターテイメントとしての痛快さも加えることが出来たんじゃないかなと思うんですよね。その辺の意識がちょっと欠けているからせっかく存在している明確なテーマも説得力に欠けてしまっている感じがしました。平たく言うとちょっと独り善がりかなって思います。いくら興味深いテーマを語ろうとしても、全体の物語の展開の面白さが足りないと見てる人にテーマが伝わらないと思うし、伝わったとしても心にスっと入ってこないんじゃないかなあ。
ケーブルテレビかなんかで放映されて、今はDVDで発売されている攻殻機動隊スタンド・アローン・コンプレックスというシリーズでは、思想的な部分を抑えて明確に痛快な近未来刑事アクションとして割り切って作っていたから、イノセンスで重視された思想語りとそのスタンド・アローン・コンプレックスでのエンターテイメント性を上手いこと組み合わせれば良い意味でもっととんでもない作品が出来そうな気がします。イノセンスはさらにその続編も作るっていう話もあるみたいだから、次はそういうのが飛び出してくると良いなあなんて思ってます。
まあ、嫌いってわけじゃないんだけどねイノセンスも。 |
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