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■[ 映画 ] 2003/09/13 [ Sat ] - 七人の侍 |
世界に黒澤の名を知らしめた超有名作品。とりあえずこの映画はすんげえ長いです。三時間を軽く越えるので観るにはそれなりに気合が必要でしょう。それでも観る価値は充分にある作品だと思いますけどね。名作と言われるだけあって確かにこれは面白い。
でもね。実際とても古い映画なので隅から隅まで全て賞賛に値する映画だとは思いません。CGバリバリの映画が数多く存在する21世紀の現在に初めて本作を観るという人には理解できない部分も多くあると思います。一般的に名作だと言われているからといって無条件で全てを賞賛するのはちょっと違うと思うので、思ったことを正直に書いていこうと思います。
まず音。この映画は音が非常に悪いです。台詞がやたら聞き取りづらく、声を荒げて話す場面なんかでは何を言ってるのかわからないことも少なくありません。まあそれは当時の録音機材の性能が良くなかったからなわけで、映画としての評価が直接的に下がる原因にはならないと思いますが、はじめてみる人には大きな障害になることは間違いないでしょう。だから割と最近国内で発売されたDVDで観ることをオススメします。字幕を入れて観る事が出来るようになってるし、音も悪さも最新技術で出来る限りは改善されているようですので。
そして映画の内容の部分で、この映画を今から観る人の多くが疑問に感じると思われるのは主要メンバーの死に様でしょう。野武士が貧しい農村に盗賊として攻めてくるのを撃退するために殆ど無報酬に近い状態で雇われた七人の侍たちは、自らの正義感と侍としての誇りだけで命がけで戦うことになるわけですが、決戦に至るまでにかなり手間をかけ準備をして結束を固めていく様は丁寧に描かれているのに、主要メンバーが命を落とす大事な場面はかなりアッサリとした描写しかされていません。そこに違和感を感じる人は絶対いると思います。
メンバーのひとりが火縄銃で撃たれ命を落とすシーンは凄い引きの絵で撮られていて、しかも本作は音が悪いので銃声も聞き取りづらく、そのシーンをはじめて見た時は一瞬何が起きてるのかわかりませんでした。そして、ああ誰かが撃たれたのかと理解した後も一体誰が撃たれたのか理解するまで結構時間がかかってしまいました。その後も死の余韻を描くシーンはあまりなく、なんか非常にそっけないんですよね。
さらに、クライマックスで撃たれながら敵のボスに向かっていく菊千代を演じる三船敏郎の気迫とギラギラしたオーラは凄いものがあるのですが、七人の侍の中でも一際重要なメンバーであるその菊千代ですら死に様はあっけなく描かれています。菊千代がお尻丸出しでぶっ倒れた後、生き残ったメンバーは菊千代に一応駆け寄ってきますがその後すぐ『あ!』とか言って他のほうに走って行っちゃうし。
あと、この頃の時代劇は人を斬った時の『ズバ!』という音や、『カキーン』という刀同士の当たる音が全く入っていません。その部分にも違和感を感じる人は多いでしょう。なんかこう戦っている状態がわかり難いんです。21世紀になってから本作を観た俺が正直に感じた本作の不満点はそんなところです。恐らく俺と同じところに違和感を感じる人はいると思いますよ。
でもね。1950年代という時代だからこそ出る独特の雰囲気は今現在これをリメイクしたところで絶対に出せるものではないし、同様に各役者の気迫も絶対に再現できないでしょう。後の『用心棒』や『椿三十郎』で三十郎を演じていた三船敏郎は、その二作品でのマイペースな男でを演じていた人と同一人物とは思えないほど凄まじいギラギラ感を持っています。この映画での三船の気迫は誰も真似できないでしょうね。しかも、『用心棒』と『椿三十郎』での三船はドシっと構えた男を演じていましたが、本作での三船はどう見ても山猿系の男です。本当に同じ人が演じているのかと疑ってしまうほど印象が違います。作品によってこれだけ違う印象を受けるのはやっぱりそれだけ三船の演技の幅が広いということなんでしょうね。
志村喬も作品によって全く違うタイプのキャラクターを演じていて、本作では『生きる』でのあの切羽詰った暗い男を演じていた人と本当に同じ人なのかと思ってしまうような落ち着いた演技を見せてくれます。この映画を名作たらしめた理由は、脚本の完成度の高さでもあるでしょうが、それと同じくらい、いや、それ以上に役者の凄みでもあるでしょう。もちろん脚本や演出面も充分優れていると思いますよ。今現在のように映画業界がしっかりとした地盤を築いていない時代にこれだけ徹底した世界観を妥協することなく予算を投入し作り上げ、ただ全体の流れを大げさにするだけに捉われることなく一人一人のキャラクターの描き分けまでもをしっかりしているのは凄い。
農民が侍を集めるシーン、野武士が攻めてくる前の準備のシーン、その中で一番若い侍が村の女性と恋に落ちるシーン、クライマックスのドシャ降りの雨の中での戦闘シーン、菊千代をはじめとする全く異なった個性を持った7人の侍の描き分けなど、三時間を越える長時間の鑑賞に堪えうるように様々な工夫が盛り込まれています。
それだけ作り込んでいるからこそ面白い映画になったと思うんですが、それと同時に、何でメンバーの死に様だけが淡白なのか、という疑問も感じてしまうのが正直なところですね。全体の丁寧な作り込みと同様にメンバーの死に様をも丁寧にフォローしていればもっともっと凄い映画になったんじゃないかなー。その辺の意見は他の人にもちょっと聞いてみたいですねえ。 |
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