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ファーストガンダムの漫画版が面白かったのでまだ読んでなかった安彦作品のひとつを読んでみました。『王道の狗』全六巻。安彦氏の歴史モノを読むのはこれが初です。随分昔に既に読んだ『クルドの星』も実際に起きているクルド族の紛争に主人公が巻き込まれていく話だったけど歴史モノとは違うし。この漫画って何かの賞とってるんだね。読み終わった後にネットで調べて知りました。それも納得、なかなか面白かったです。
ガンダムの項で安彦氏の原作漫画はイマイチのことが多いと書いたけどこれはかなり楽しめましたね。でもね。面白かったことは確かなんだけどなんかこう薄味なんですよねーやっぱ。日本や朝鮮、そして清などの国々が大混乱している時代の話なので全体の流れは熱いんだけど何故だか薄味。
ストーリーの概要はこんなん。明治時代の自由民権運動の渦に巻き込まれた主人公が、色々あって投獄されるもなんとか脱獄。捕まっていた時にたまたま同じ鎖で繋がれていた男と一緒に逃げ、しばらく行動をともにします。その後はまた色々あって二人は別の道を歩みます。主人公は勝海舟などの多くの大物に出会いながら自分自身の信じる『王道の道』を行き、彼と一緒に脱獄した男はまた違った道を歩みますが、偶然にも二人は再会し、また色々あります。明治という動乱の時代を生きた男たちの物語です。
そんな感じで全体の流れはとても熱いし、主人公と不思議な因縁を持ったもう一人の脱獄囚との関係も良いし、テンポ良く二転三転する展開もかなりスゴイものがあると思う。でも何故か淡白な感触。安彦氏の漫画って読み終わった後にいつもこういう淡白感を感じるんだけどそれは何故だろうなあと考えてみたのだけどもね。多分それは主人公が『好青年過ぎる』からじゃないかなあ(単なる好みかもしれないけどね)。この人の漫画はいつもそうなんだよ。俺が読んだことのある『アリオン』、『クルドの星』、『ヴイナス戦記』、そして本作の主人公はどれも微妙な印象の違いこそあれ(顔は同じ)、根本のところはみんな生真面目なんですよ。生真面目っつうよりも『純粋過ぎる』と言った方がいいかな。
俺はそういう当たり障りのない主人公って読んでても感情移入しきれないのよね。個人的にはもっと『欠陥がある故に滲み出る人間らしさ』みたいなものを持った主人公の方が好きなんです。主人公があまりに純粋過ぎると気持ちの動き方に現実味をいまひとつ感じきれないっつうか。本作も胸にぐっと来るような主人公の心理描写は無かったなあ。本作が楽しめたのはストーリーが複雑でテンポが良かったからであって、心理描写の部分ではそれほど感動したわけじゃない。だから面白かったけど淡白な感じがしたのだと思います。
『ヴイナス戦記』の前編の主人公のヒロはちょっと不良っぽかったので少し違うんだけど、やっぱり気持ちの動きにリアリティーを感じられなかったからいまいちだったのかも。軍隊に入る動機が『熱いものが欲しいんだ!』ってだけじゃ『はぁ?』って感じだよ。でもまあ、これが安彦氏の作風なんだろうなあと今は妙に納得してますけどね。 |
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