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僕はなんだか疲れてしまった。
ずっと歩いていても何も見えないし、なにも掴めない。
僕は時々こうなるんだ。
僕はサッキまで歩いていた道の真中で座りこみ、何も無い空を見上げていた。
もう夜だった。
すでに辺りは真っ暗だった。
なんだか全てがどうでもよくなっていた。
空には何も無い。
星も、月も、雲も、何も無い。
ただひたすら真っ黒な空。
僕はその空を見上げてる。
すると突然、空をさえぎるように上から男が僕を覗きこんだ。
僕はそれでも驚きはしなかった。
いつもの事だ。
男が現れるのは分かっていた。
男は言う。
『空には何が見えるんだい?』
僕は立ちあがり、男のむなぐらを掴み叫んだ。
『何も見えないさ!それがどうかしたか!空には何も無い!!真っ黒だ!』
男はいつものように不気味に笑っている。そしてこう言う。
『それさ。それがお前の悪い癖だ。見えない?何も無いだと?ククク・・・・。』
男は僕の手を振り払い、僕から少し離れた。
そして空を指差しこう言った。
『あそこには月が見える。ワタシにはね。それはワタシに見ようとする意思があるから見えるのさ。』
男は突然大きく声を上げて笑いながらこう続けた。
『おまえの目にはアレが見えないんだね!あの綺麗な月が!アハハハハ!それは愉快だ!実に愉快だ!アハハハハハ!!』
そして次の瞬間、男は消えてしまった。
空を見上げるとやはり何も見えない。
僕はその場でしばらく目を閉じ、気分を落ち着かせるように心がけた。
そしてもう一度空を見上げると、そこには綺麗な月が見えた。
はっきりと見えた。
僕はその月明かりを頼りにして再び歩き始めた。
僕はあの男にいつも不安にさせられる。
でもそれと同時に助けてももらってるんだと実感した。
あの男が僕の前に現れなくなる時。
それは僕自身がダメになってしまう時だろうと思った。 |
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