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僕はいつもと同じ。
真っ白な道、真っ白な空、そんな空間にいる。
先の見えない真っ白で真っ直ぐな道を歩いている。
しばらく何も考えずに歩いてた僕は、突然何かにつまづいて転んでしまった。
慌てて起き上がって足元を見ると、そこには小さい三角形の出っ張りがあった。何も考えずにボケっとしながら歩いていた為にそんな小さなモノに足を引っ掛けて転んでしまったんだ。
僕はその三角形の出っ張りがとても理不尽な存在に思えた。
無性にこの真っ白な道から排除したくなった。
とても腹が立ってきた。
僕はただ平和に歩いていたいだけなのにこれのせいで転んでしまった。
『ふざけるな』 と思った。
僕はその場にしゃがみこんでその三角形の出っ張りを真っ白な道から排除しようと思った。
しかし、その三角形は道にしっかり埋まっている。ちょっとやそっとじゃ排除できそうも無い。でも僕は排除しようと思った。
僕は右の拳で力いっぱいそれを叩く。
何度も何度も叩く。
僕の拳からは真っ赤な血が滴り落ちている。
それでも、僕は僕の決めた事をやり遂げる為に何度も何度も叩く。
方法なんか関係ない。
とにかく、僕が気に食わない『三角形の出っ張り』を取り除く。
拳の感覚が無くなるほど叩いていたら、その三角形の出っ張りがポロリと地面から外れ横に少し転がった。
その後、僕は立ち上がりその三角形の出っ張りを道の脇の方に向かって足で蹴飛ばし歩き出した。
拳からはまだ沢山の血が滴り落ちていて、麻痺していた痛みがだんだん明確になってきた。
僕の望みどおりに三角形の出っ張りを排除したのに僕の心は灰色。
残ったのは拳の痛みだけ。
僕は歩き続けた。
どれくらいの時間が経っただろう。
もう拳の血は止まり、痛みも消え、キズもふさがってきていた。
そして僕はまた何かにつまづいて転んだ。
足元を見ると、またあの三角形の出っ張りがある。
なんだかそれが僕が歩く事を妨害しているように感じた。
僕は、再びその三角形の出っ張りを排除しようと思った。
拳から真っ赤な血を流しながら何度も何度も叩く。
地面を見詰めながら一心不乱に出っ張りを叩いていると、ふと僕の視界にボロボロの黒い革靴のつま先が入ってきた。
上を見上げると、男が立っている。
黒い帽子をかぶっていて黒いスーツを着ている。顔は帽子の陰になって良く見えないが、薄っすらと笑っているのは確認する事が出来た。
男は言う。
『キミはつまらない。実につまらない男だよ。』
僕には男の言葉の意味が良くわからなかった。
さらに男は言う。
『その拳のキズはキミの糧になったかい?』
そういうと男はスウっと消えてしまった。
糧?
このキズの意味?
・・・・・・・僕は考えた。
そもそもこの三角形の出っ張りは何だ?
・・・・・・・僕は考えた。
何でもない。
この三角形は何でもないんだ。
ただの三角形の出っ張り。
それ以上でも以下でもない。
じゃあ、この拳のキズは?
このキズに意味なんて無い。
そう、意味など何も無い。
僕は自分の血だらけの拳を見詰めながらとても悲しい気分になった。
僕はその場を悲しい気持ちのまま立ち上がりまた歩き始めた。
そしてまた結構な時間が経過した頃、僕は何かにつまづいて転んだ。
足元を見ると。
やっぱりあの三角の出っ張りがある。
僕は静かに立ち上がり大きく深呼吸をした。
見上げると、今まで真っ白だった空が青く見え、白い雲が流れていた。
僕は出っ張りを静かにまたいだ。
そして。
再びゆっくりと歩き始めた。 |
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