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僕は今日もいつもと同じように歩きつづけていた。
しばらく歩いていると真っ赤なハンカチが落ちている。
僕はそれを拾い上げ、良く眺めてみた。
とても鮮やかな赤の綺麗なハンカチだった。
すると、男が僕の目の前に突然現れた。あの男だ。
男は言う。
『そのハンカチはワタシのものだよ。返してくれないかい?』
僕は黙ってそのハンカチを男に手渡した。
ハンカチを受け取ると、男は静かに笑みを浮かべ僕に言った。
『このハンカチは何色なんだい?』
僕はすぐに答えた。
『見れば分かるじゃないか。赤だよ。鮮やかな赤だよ。』
男は低い声で不気味に笑っている。僕はとても恐くなった。とても不安になった。
『コレが赤だって?見れば分かる?バカを言っちゃあいけない。コレは青だよ。青いハンカチさ。クククク・・・・。』
そう言うと男はハンカチをポケットに押し込み、軽く一礼をして消えてしまった。
アレが青?
僕には赤に見えた。誰が見たって赤じゃないか!
あのハンカチが赤なのは唯一の事実だ!
僕をからかったんだ。あの男は僕をからかったんだ。
僕はあのハンカチを見た瞬間に赤だと思った。
見れば誰の目にも明らだと思った。
唯一の事実だと思った。
選択肢など無いと思った。
青であるかも知れないなんて微塵も考えなかった。
でも今は確信が持てなくなっていた。
いつもそうだ。
あの男が僕の前に現れるといつも不安になるんだ。
僕が何かをするたびに出て来て、いつも僕と正反対の事を言うんだ。
僕はその男にいつも不安にさせられて来た。
恐らくこれからもずっとそうだろう。
あの男が僕の目の前に現れなくなる時は来るのだろうか。
イヤ、きっとそんな時は一生訪れない。
少なくとも僕には訪れそうも無い。
あの男は皆の前にも現れているはずだ。
僕の前にだけじゃない。
だから、皆後ろを振り返って自分の軌跡を確かめるんだ。
そうして今日も歩きつづけるんだ。 |
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