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大惨事


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ある日、俺は会社のトイレでウンコをしていた。


スッキリしたと判断した俺は一度ケツを拭き立ち上がろうとした。しかしケツを拭く事によって肛門に刺激を受け、再び便意が俺を襲った。俺は慌てて便座に座りなおしもう一度踏ん張った。


全てが排出されたようだ。これで本当にフィニッシュだ。そう確信した俺はもう一度ケツを拭き今度はズボンもしっかり履いて水を流した。すると。



ズンズンズンズンズンズンズンズンズン


俺の頭の中でジョーズのテーマが突如流れた。そしてそのテーマのボリュームが徐々に上がって行くと同時に便器内の水位も上がっていった。 それを見て個室内で硬直する俺。それをあざ笑うかのようにジョーズのテーマは俺の頭の中でどんどんボリュームを上げていく。


ズンズン ズンズンズ・・・


ピタ。


止まった。水が便器ギリギリでかろうじて止まったのである。ウンコを2回して2回ケツを拭いた為に便所が詰まってしまったのだ。俺はとてもきれい好きなのでただでさえケツを拭く回数が多い。それを2回も行った為に詰まってしまったのだ。


ここで念のために言っておくが、あくまでも詰まったのはトイレットペーパーである。決してウンコが原因で詰まったのではない。何を食ったんだ!?なんて事を言うのは間違っているのであしからず。ホントだぞ。ウンコじゃないぞ。詰まったのはウンコじゃないってば。


しかし水が止まったとはいえ詰まっている事に違いは無い。ここからどうするかが勝負だ。誰にも気づかれずにこの現状をなんとか打破したかった。しばらく俺はその場で考えたがこのまま個室内に居ては何も対処が出来ないのは確かだった。とにかく俺は掃除用具の棚まで走って行って、便所の詰まりを抜くゴムの吸盤(以下スッポンと呼ぶ事にする)があるかどうかを確認する事にした。


俺が個室を出た後に誰かが用を足しに来たら大変だ。俺は華麗なステップで掃除用具の棚まで走り素早く棚の中を確認した。・・・・・しかし『スッポン』は無かった。俺はガックリとしながらもとにかく一度個室の中に戻らなくてはと思い再び華麗なステップで個室に戻りカギを閉めた。そしてもう一度考えた。


そうだ。捨てるダンボール箱が置いてある所からダンボールをもってこよう! それを細長く折りたたんで便器の穴をほじくればもしかしたら流れるかもしれない!


俺はそう思った。そして再び個室を華麗なステップで飛び出しダンボール置き場まで走って目ぼしいダンボールを2つほど腕に抱えて気づかれないように慌てて個室に戻りカギをかけた。すぐにそのダンボールを解体し細長い棒状に加工してグリグリと便器に突っ込んでみた。


・・・・反応なし。


ヤバイ。ヤバすぎる。このままもたもたしていたら誰かにこの状況がバレてしまう!ウンコをした後流れなかった・・・・という事は俺の汚物まで見られてしまう!


俺は個室の中で一人パニクっていた。俺はパニくりながらも何とかほかの方法を考えようとした。うーんうーんうーんうーんうーんうーんうーん・・・どうしようどうしようどうしようどうしよう・・・・。


そうだ! 大きなビニールのゴミ袋を持ってきて腕に装着して直接自らの腕で便器の中をほじくってやろう! そうだ! もうそれしかない! 俺はそう決意しまたもや個室を華麗なステップで飛び出しゴミ袋を数枚手に取り大急ぎで個室に戻ってカギをかけた。腕にその袋を装着し気合を入れて中をほじくった。


・・・・反応なし。


絶望に打ちひしがれながら便器をもう一度覗いて見るとなんと微妙に水位が下がっているではないか。


ここで俺に悪魔がささやいた。


『思い切ってもう一度流しちまえよ。水位がさがってるってことはもう一回流せば流れるかもしれないぜ?』


そのささやきが聞こえたときには俺はすでに半笑いを浮かべてしまう程切羽詰っていた。俺は白目をむきながら水を流すレバーにそっと手を伸ばした。そして。


ええええい!


俺はやってしまった。僅かな可能性にかけてレバーを倒してしまった。俺は祈るような気持ちで便器を覗きこんでいたが、無常にも再びあの不吉なジョーズのテーマが頭の中で流れはじめたのだった。



ズンズンズンズンズンズンズンズンズ・・・


ザバアアアアアア・・・・・


全てが終わった瞬間だった。


俺の汚物が床一面に広がった。俺はさらにパニックを起こし個室を飛び出した。水でぬれた靴のゴムの底がタイルと擦れてキュッキュッキュという大きな音をたて、それが俺を嘲笑っているようにすら思えた。俺はほかの人にこの大惨事の事を正直に伝え、ビルの管理人室に連絡を取ってもらった。


するとすぐに『スッポン』を持った掃除のおばさんと管理人のおじさんがやって来て詰まった便器を直してくれて、さらに掃除もしてくれて去って行った。俺はそれからしばらく落ち込んでしまって暗い表情で仕事に戻った。


すると、友人が近づいてきて元気付けてくれた。『大丈夫っすよ〜。たかがトイレを詰まらせただけじゃないっすか〜』なんて笑顔で気さくな言葉を俺にかけてくれたのだ。俺は心底『友達って良いな』と思った。しかしどうも俺の心に引っかかった事がひとつだけあった。


それは。


はちきれんばかりの笑顔を俺に向ける彼の手が、しっかりとエンガチョの形をつくっていた事である。



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