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何故だかわからない


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ある日、帰って来て飯の準備をした後、部屋にもどるのが面倒だったので台所で飯を食っていた。その時にふと思い出した。俺が小学校4年生の時に亡くなった母方の祖母の事を。何故だかわからないけれど、突然思い出した。


今俺が一人で住んでいる家には俺が小学校にあがる直前くらいまで家族5人住んでいた。その後に新しい家を建てて家族でそこに引越し、それまで住んでいた家は母親がやっていた洋裁店専用の建物となった。その後、母親は洋裁店をやめてしまいしばらく空家だったが、俺は大学を卒業したと同時にその空家に一人で移ったのだ。


まだ家族が今俺が住んでいる家にいる頃、両親が留守の時に祖母が家に買い置きしてあったパイナップルを俺のために切ってくれた事があった。それをふと思い出したんだ。俺が今一人で飯を食っているこの台所で切ってくれた。家に帰ってきた両親が必要以上に祖母を怒鳴りつけていたのを今でも覚えている。『何故勝手に切ったの!』 『パイナップルには正しい切り方があるのにメチャクチャに切っちゃって!』・・・そんな事を言われていた。子供心にそんなに怒る事じゃないのに・・・と思っていたのも覚えている。


それを思い出したあと、他のエピソードも頭に浮かんできた。


やはり両親が留守の時に花のセールスを断りきれずに沢山の菊の花を買ってしまい、帰って来た俺の母親に怒鳴られている姿。そんな時の祖母の悲しそうな顔が頭に浮かんでなんだかとても悲しい気分になった。何も言い訳をせずただ黙っていた祖母の悲しそうな顔。


そして祖母が倒れた日の事も思い出した。俺はその日、父親とプロ野球を見に行く予定で、兄貴はその次の日から沖縄に旅行に行く予定だった。俺は朝いつもより早起きして居間に行くと祖母が苦しそうに咳き込みながら俺の両親に背中をさすられていた。俺も兄貴も自分のイベントが潰れてしまうかもしれないという事を心配しながら祖母を見詰めていた。


祖母が亡くなったのはそれから二日後の事だった。


優しい故に俺にパイナップルを切ってくれて怒られていた祖母。


優しい故に花のセールスを断りきれずに買ってしまい怒鳴られていた祖母。


俺は特別お婆ちゃん子というわけではなかったが、祖母に嫌な思いをさせられたり、嫌いだと思ったことは一回も無かったし、どちらかというと間違い無く好きだった。そんな祖母が苦しそうにしている姿を見て何も感じなかった自分が確かにそこにいた。幼かったからこそ人間の死を実感として感じられなかったのは間違いない。だから仕方がないのはわかっている。


だけど何故か、その事を思い出した時胸が苦しくなった。胸が張り裂けそうになった。祖母のために悲しい気持ちになったり、心配してあげる気持ちを持ったりする事がその時リアルタイムに出来なかった事実にとても胸が痛む。今ならもっと旅立とうとしている祖母をしっかり見届けてあげられるのに・・・と、なんだか不思議な後悔が俺を襲って来た。


おばあちゃんは天国で楽しくやっているかな・・・。


俺の事覚えてるかな・・・。


15年以上たった今、突然そんな事を思った。


何故だろう。


自分でもわからない。



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