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ゴキブリ


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俺はゴキブリが嫌いだ。


夏の深夜に台所に行くのが怖い。でも見つけてしまったら、迷わず戦いを挑む。怖いけど。戦いを挑むときの武器はスリッパだ。殺虫剤はいけない。だって飛ぶし、奴ら。奴らが現れるのは台所とは限らない。どっかから飛んできて、思わぬところに居たりする。


俺は夏のある日、大便をしていた。汗だくだった。イマイチ出が悪い。切れが悪い。


そしてなんとかすべてをひねり出し、ほっと一息。トイレットペーパーに手を伸ばした。ペーパーを引っ張り出したその時、ヤツは現れた。まるで誰かが仕組んだ罠かのように、トイレットペーパーとその上のカバーの間から現れた。ゴキブリ登場のテーマが俺の頭の中で流れたような気がした。


そこからヤツは先制攻撃に出た。飛びやがった。まだこっちが何もしてねぇのに飛びやがった。トイレと言う密室で、しかも俺のケツにはまだ大便が付いている。


まさに地獄絵図。


大便をケツに付けた男が汗だくで狭い個室で暴れている。悲鳴を上げながら。最悪の絵だ。とにかく体にヤツが張りつかないように、とにかく暴れまくった。ヤツは壁にとまった。チャンスだ。血祭りに上げるチャンスだ。俺は殺意の塊だった。


自分が履いていたトイレ用のスリッパを手に持ち、ねらいを定めた。しかし、運が悪い事にヤツは壁の角に止まっている。スリッパが当たるかどうかそれは俺の力量にかかっている。俺はスリッパの裏ではなく、横でヤツをしとめることにした。かなり難易度が高い。しかし、今殺らなければ、殺られるのはこの俺だ。そして渾身の力をこめ、スリッパを振り下ろした。


さすが俺。プレッシャーに弱い。


ヤツはまた飛びやがった。俺はさらに汗だくになりながら暴れた。すると扉の隙間からヤツは廊下へ、廊下へ逃亡しようとしてやがる。に、逃げるのか!きさま!勝負は着いていないじゃねぇか! 俺はヤツを追おうとしたがケツをまだ拭いていないことを思い出した。急いでケツを拭きズボンを履かず下半身丸出しで扉の外へ飛び出す俺。ヤツはもうそこには居なかった。俺の負けだ。


廊下に下半身丸出しで、汗だくの男がたたずむ姿は、この上なく悲しいものがある。


だからゴキブリは嫌いだ。



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