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フジロックフェスティバル。
日本初の大型ロックフェスティバル。富士山の近くで行われるためにこの名称がついている。山での大規模なロックフェスティバルというわけだ。
97年8月、2日間に渡って行われる予定だったこのイベントに2日間通して参加すべく友人と3人で赴いた。思いっきり楽しむつもりで。
フェスティバル前日、テレビの天気予報では台風の情報が伝えられていた。そして当日、直撃はしなかったものの台風はフェスティバル会場をかすめた。
当日、山の天気は最悪。真夏だというのに凄まじい寒さだ。俺は友人と3人で行ったのであるが、誰一人防寒具を持ち合わせてる者は存在しなかった。寒さで死ぬ所だった。
実際、公にされていないが死者が出たといううわさがある。多分ホントだと思う。一人ぐらい死んでるって絶対。
今回の話題の中心は、フェスティバルが行われている最中の事ではなく、その帰り道での出来事だ。
フェスティバル1日目が終了し、会場に泊まるのは天候の関係で無理だと思った俺たちは一度友人の家に戻ろうという事になった。その友人の家まで、俺は車で行ってそこから電車を乗り継いで会場まで来ていたのだ。
とにかくその友人の家まで戻って、2日目は車で出なおそうという事になったのだ。
しかし、帰るためには歩いて山を降りなくてはならなかった。このイベントのために臨時運営されているバスは混雑しすぎて麻痺状態だったからだ。
山を歩いて降りている内に、俺は自分の体の異変に気がついた。 なんだかマタが痛い。シャレにならないぐらい痛い。マタがいてええええんだよ。
こ、これはマタズレだ!
ズボンはライブを見て泥だらけ。そして雨でびしょ濡れ。
泥が雨でびしょ濡れになったズボンにこびりつき、それがヤスリのような効果を生み出しやがっているのだ。
歩きながら徐々にガニマタになっていく俺。友人たちに徐々に引き離されていく。
いい年して本気で泣きそうになった。
ボロボロになりながらやっと駅についた。しかし終電はとっくに終わっている。町に出るためにはタクシーに乗らなくてはならない。
ボロボロになった俺を気遣い、友人たちがタクシーを捜しに行く。この時俺はすでに白目をむいていた。多分。
そして友人たちがタクシーを拾ってきてそれに乗り込み、友人宅のわりと近くの駅まで行った。3万円以上かかった。
そこの駅で始発まで待ち、友人宅に到着。ぬれた服を脱ぎ、友人から服を借りた。汚れたズボンは洗濯をしてくれるとのことだった。ズボンは履くのがわずらわしいのでとりあえずトランクス一丁でしばらく過ごした。ズボンを履くと、生地が当たってマタズレが痛いし。
そして俺は2日目には行かず、自分の車で家に帰ることにした。もう疲労が限界だったからだ。友人たちは一回眠ってから2日目も行くといっている。とにかく俺だけ帰ることにした。
しかし、ここからが本当の悪夢のはじまりだった。
この時の俺は、免許取り立て。俺は友人に帰り道の説明を受け、友人宅を出て車に乗り込んだ。そしてバックする俺。
ゴンっ。
いきなり電柱にぶつかる俺。コントか、これ。
気を取り直し、発進。しかし10分ほど走ったところで、異変に気づく。
さすが俺。もう迷っている。
そう、俺は極度の方向音痴なのだ。 錯乱。それに加えて寝不足と疲労。最悪のコンディションだ。その上地図を持っていない。行きは、一人友人が助手席に乗っていて、ナビゲーションをしてくれたので安心して運転だけに集中出来た。だから安全にたどり着けた。
しかし、一人で車に乗っていて、道に迷うと錯乱してしまって、凄まじく運転が不安定になるのだ、俺は。ナビ役の人が乗っていればいたって安全運転なのだ。
くそっ!ナビさえいれば!こんなことにならないのに!
とりあえず道の脇に車を止め、友人に電話をして色々と道を聞いたがさっぱり分からない。とにかくもう一度頑張ってみるという事で電話を切った。
しかし、生まれつき方向感覚が欠如している俺がどう頑張っても意味をなすわけもなく、もう一度車を止め、友人に電話。
トゥルルルルル、トゥルルルルル・・・・・、ブツ、
留守番電話に転送します。
寝やがった、ヤツラ!
いくら電話しても出ない。もう駄目だ。しかし、とにかく走るしかない。俺は車を走らせた。徐々に意識が遠のいていく。
そのとき。
バキっ!!
はっとした俺は車を止めた。 ふと横を見ると。
左側のサイドミラーがない。
慌てて後ろを振り返ると、ミラーが道端に無残に落ちている。しかしもう、降りてその残骸を拾う気力もなかった。
ミラーを見捨てて再び発進。
しばらくメチャメチャに走っていると、とんでもなく狭い道に入り込んでしまった。そこで、再び錯乱。なんだか全てがどうでも良くなる。
そして、また意識が遠のいたその瞬間。
パァァァァンっ!!
すごい音がした。
とりあえず車を止めたが、俺はその音にすらびっくり出来ないほど疲れ果てていた。そのまま無理やり発進しようとするとハンドルがきれない。重くて切れない。
何故だっ!
俺は車から飛び出した。
すると。
タイヤが取れている。
目の前が真っ白になった。俺の周辺半径1メートルはセピア色になっていた。三段ほどの低いブロックの塀から突き出ていた鉄筋がタイヤに刺さったのだ。
そして、なんとなく俺は自分の下半身を見下ろした。その時完全に我に返った。
パンツ一丁。
そうだ!俺はズボンを履かずに友人宅を出たのだった!ズボンは友人宅で洗濯中だったんだ!ぐあああああああああああ!
ヤバイ、車は再起不能。そして俺の下半身はパンツ一丁。最大のピンチだ!
タイヤが破裂した音に驚いた近所の人々が続々と出てくる。もう、どうしようもない。観念するしかない。
『す、すみません。ズボン譲って頂けないでしょうか。』
俺は一言目にそんな事を口走っていた。これでは完全に変質者だ。慌てて俺は続けてこう言った。
『昨日の台風でズボンがビショビショになってしまってトランクスしかないんです。』
それを聞いた近所の人がいらないズボンを俺にタダで譲ってくれた。
世の中捨てたもんじゃないね!こんな親切な人もいるんだね!ありがとう! 俺は、この恩を一生忘れません。後藤さん。本当にありがとう。
そのズボンをすぐさま履き、ジャフに電話、車はレッカーで移動され、その後俺は電車で帰宅した。家に着いたのはすでに夕方過ぎだった。
そして、2日目にも行くと言っていた友人たちに電話をしてみた。
ヤツラは一眠りしてフェスティバルに行っているはずなので電話は繋がらないはずだ。
トゥルルルルルル、トゥルルルル・・・ガチャ、
『よう、寝過ごした。』
ぐああああああああああああああ、俺も友人宅で眠ってから一緒に帰ればよかったんじゃねえかっ!
ジーザス。 |
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