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■[ 音楽 ] 2003/12/26 [ Fri ] - 掌・くるみ / Mr.Children |
今、かなり売れているミスチルの新曲。ミスチルに関しては説明なんか不要だと思うんで、アーティストの紹介的な文章は省きつつ本題に入りますけども、とにかくこのシングルは素晴らしい。文句なく曲がいいもん。『掌』も『くるみ』もどっちも久々に飛びぬけた名曲だと思います。桜井さんが病気で休養に入る前のミスチルは悪くは無いけど停滞感があるなあと正直感じていました。常にあるレベル以上ではあるんだけど、『CROSSROAD』とか、『TOMORROW
NEVER KNOWS』とか『INNOCENT WORLD』とかにくらべると胸にグググっとくるものが少し足りなくて彼らにしてはもうちょっとかなあってのが多かったように思うんですが、ここに収められている両A面となる二曲は久々にガツンとくる楽曲に仕上がっています。これはテレビで流れてるのを何となく聴くだけじゃ勿体ないのでみんな買うといいです。
歌詞からメロディーまで全てが素晴らしいよ。この二曲を聴くと冗談抜きで泣きそうになる。歌うともっと泣きそうになる。それほど胸にグッとくる。こういうのが売れるってのはすごく真っ当なことなんじゃないかな。オリコンにおいてのデイリーランキングでもかなりしぶとく1位にいるけどそれも納得だよ。
まずは『くるみ』に関してですがファンサイトのBBSを見てたら『くるみ』ってのはど『未来』をさかさまにして『来未』として、読みを変えて『くるみ』ということなんじゃないかなって言ってる人がいたけど、それを見て『ああ!なるほど!』と思わず声を出してしまいました。で、未来をさかさまにしたモノだから過去を意味するのかなって推測してる人もいた。それも『ああ!なるほど!』と妙に納得。インタビュー記事とか読んだことが無いから実際のところは知らないけどたぶん大きくは外れてないんじゃないかなあ。
この推測を踏まえて曲を聴くとさらに泣ける。ちょっとジャジーな雰囲気のピアノのアレンジや、サビでの盛り上がり、そして後半ではサビとは別にもうひと盛り上がりする構成など俺の好みにガッチリはまっています。そして『掌』。こちらは歌詞において桜井さんが得意とする手法をもっとも理想的な形で具体化したかのような仕上がりでこれまた俺のハートをガッチリとキャッチ。
桜井さんの書く歌詞って、誰にでも思い当たるようなことを上手い具合に形にしているものが多いんですよね。それほど凄いことを言っているわけじゃなく、言葉にはしないけど多くの人が感じていることを歌っているだけ。もちろんそれだけならば大した手法じゃないけども、彼の書く詩ってのは、一曲の中でポジティヴな詩よりも、むしろネガティヴな詩の方が割合が高かったりするんですよね。掌もまさにそれに当てはまるタイプの曲です。
抱いたはずが突き飛ばして
包むはずが切り刻んで
撫でるつもりが引っ掻いて
また愛 求める
解り合えたふりしたって
僕らは違った個体で
だけどひとつになりたくて
暗闇で もがいて もがいている
サビにはこういった悲しい詩を持ってきて、しかも序盤でも、とにかく人の悲しい性を畳み掛けるように歌っています。それがやっぱり多くの人が思い当たるようなモノで、どうとでも解釈できるような言葉を選んでる。そして。
ひとつにならなくていいよ
認め合うことができればさ
もちろん投げやりじゃなくて
認め合うことができるから
ひとつにならなくていいよ
価値観も 理念も 宗教もさ
ひとつにならなくていいよ
認め合うことができるから
それで素晴らしい
と、サビとはメロディーを変えてポジティブなことを歌っています。ミスチルにはこういう曲って結構多くて、これがかなりポイントなんじゃないかなあと思うのです。つまり、誰もが思い当たるネガティヴな感情や状況、人としての性を多くの言葉を使って歌い、『でもさ。』みたいな感じで少な目の言葉でその曲で訴えたいポジティヴなテーマを歌う。これってすごく巧妙な曲の作り方だと思うよ。
彼らの過去の名曲『My Life』なんかでも、あんまりカッコよくない主人公の生き様を歌った後で『いいことばっかあるわけないよ それでこそmy
life』とサラっとちょっとだけ格好悪い主人公が前向きな気持ちを持っている感じを表現しているし、『雨のち晴れ』なんかもその部類だと思う。個人的に超名曲だと思っている『花』なんかは、ネガティヴって程ネガティヴな詩が多いわけじゃないけど、ポジティヴな気持ちを歌い上げる時に『すべてをぶっ飛ばせ!』みたいに勢いのある気持ちにいきなり飛躍するのではなく、儚いけど綺麗な花を題材にして『ちょっとした気の持ちようだよ。』って感じのさりげない雰囲気を醸し出しつつ自然に心に入ってくるように仕上げてる。
なんつうか、ポジティヴな結論に持っていく場合にも、桜井さんの書く詩って、必ずネガティヴな描写が挿入されていて、しかもそれが結構具体的なのよ。だから物語風になってる曲も多い。具体的だと聴き手の共感を呼びにくい部分もあるんだけど、一曲の中で色々なタイプの状況を描いて、しかもどうとでも解釈できるような言葉の選び方をしてる部分も必ずある。そして何よりも、歌詞の中の主人公たちが感じていることや気持ちの持って行き方が庶民的で基本的にかなり控えめになってる。だからスっと心に入ってくるのよね。
メロディーに関してはさっきもちょっと書いたけど、サビとは違う展開をする部分が後半に入っていることが多いのがポイントだと思う。そこにその曲のテーマとなる歌詞を持ってくることで、聴き手に分かりやすくテーマを理解させて、心を捉えてる。こういう曲の作り方をしてるアーティストって日本の売れている人達の中では意外と少ない気がするんだよね。そういう意味で彼らの曲は洋楽的な盛り上がり方をする曲が多いのかもしれない。『名もなき詩』の後半の盛り上がりとか、『花』の後半のちょっとヘヴィーなギターリフが入るところとかみたいに詩は庶民的なレベルに留めてありつつ、メロディーは物凄く熱く盛り上がる。桜井さんは曲の作り方がすげー上手いと思うよ。
エルヴィス・コステロやビートルズなどにモロに影響されている楽曲も多数あって、特にエルビス・コステロの影響を露骨に出している曲(例えば『シーソーゲーム』とかかなりモロにコステロテイスト)もあるけど、それを上手い具合に日本の音楽としてわかり易くまとめ上げているのも上手いなあと思います。
ああ。あと。彼らがここまで根強い人気を誇っているのは、シングルの楽曲が良いからってのは当然として、シングルにならなかったアルバム曲にも飛びぬけた名曲が多く存在するってのも大きな理由のひとつになっているんじゃないかなと思います。
というのも、日本ってシングル先行型だから、アルバムが『あのシングル曲が入っているアルバム』という売れ方をすることが多いでしょ。『シングル曲多数収録!』みたいな宣伝文句で売り出して、実際に聴くとシングル曲だけが浮いていて、アルバムオンリーの曲は捨て曲気味のモノが多かったりすることも少なくない。そういうアルバムを出すアーティストは根強いファンが付きにくいっていうか、やっぱ消えていくよね。彼らの場合はアルバムの楽曲もかなり高いレベルで作ってるし、名作『深海』では、シングルを中に混ぜながらも、アルバム全体をひとつの作品として仕上げてる感じがしてすごいなあと思ったりしたし。
話がそれまくったけども、とにかく、『くるみ』と『掌』は両方ともミスチル屈指の名曲であり、ある意味、桜井さんの計算高い作曲センスが遺憾なく発揮された曲だと思う。まじ泣けるよコレ。ミスチルの曲で久々にキタねー。 |
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