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 ■[ Books ] 2007/01/14 [ Sun ]



☆メリーゴーランド [ 萩原 浩 ]
メリーゴーランド

これは良いね。非常に良い。過労死が続出するような無茶な残業をせざるを得ない会社に勤めていた主人公はたまたま採用試験に合格した市役所に転職。そこで平和にいわゆる『お役所仕事』をこなして過ごしていた。あるとき彼はそんな生活を一変させる、ある仕事を押し付けられてしまう。

それはかつて役所が作った全く役に立たない施設のひとつである『アテネ村』というセンスの欠片も無いテーマーパークの再建。それは癒着やらなにやらの事情から建てられた本当に酷いモノ。客の為ではなく役所の上の人間の都合ですべてが作られているので本当に酷い施設になってしまっている。当然客なんか殆ど来ないのが現状。主人公は色々と思うことがあり自分なりにその施設を本当の意味で再建する為に立ち上がる・・・・・という風な物語。

最初は腰が引けていた主人公も話が進むに連れてやる気を出し始め、自分の考えから様々な人々の協力を得て行動的に仕事を進めていきます。その過程で出てくる協力者たちがみんな個性的で非常に魅力的。ただ、すんなり気持ちよく主人公を助けてくれる人たちは殆ど存在せず、それぞれがかなり勝手なことをする為、主人公はそれらをコントロールすることにも手を焼いてしまう。

序盤から中盤にかけては主人公の奮闘をコメディータッチで楽しく、そしてテンポ良く描いていきますが、後半から思わぬ方向に話が進んでいきます。本作は後半の展開が非常に良い。最初はただ単に『ダメなテーマーパークを奇跡的に立て直しました万歳!』で終わってしまうのかと思って読んでいたので後半の展開は結構驚きました。

そこに本作のテーマが凝縮されていて、そこに至るまでにもしっかり様々な伏線が張られている為、意外ではあるけど決して唐突ではなく、しっかり地に足の着いた深みのある展開に思えます。単純な大団円ではないのが個人的にはとても気に入りました。というか、大団円どころか見方によってはバッドエンドと捉える人もいるかもしれない。

俺は少し物悲しいけど、どこか爽やかで美しい最高のラストだと思う。
テーブル下


 ■[ Books ] 2007/01/27 [ Sat ]



☆噂 [ 萩原 浩 ]
噂

ぬあああああああ。後味悪うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。滅茶苦茶面白かったけど、死ぬほど後味が悪いですコレ。しかも主人公が直接的に不幸な目にあうとか、映画セブンのように全面的に犯人勝利とか、そういう部類の後味の悪さではない。俺が今まで出会わなかったタイプの後味の悪さ。ある意味最高であり最悪な終わり方。うわああああああ。

あらすじはこんなん。

ある香水のプロモーションを請け負った広告代理店がバイトとして雇った女子高生たちに意図的に都市伝説のような噂を流させる。そこにはその香水をつけていると幸福になれるとかいう部類のものに加えて、その香水をつけているとレインマンという殺人鬼から身を守れるというものも含まれていた。レインマンはレインコートを被っていて殺した女性の足首だけを切断するという。そういう噂を流すことで口コミでそれが広がり、香水が話題になっていくことを狙った特殊なプロモ。そしてその都市伝説と同じような殺人が実際に起きてしまう・・・・といった具合。

本作ではそれを追う所轄の刑事とコンビを組むことになった階級が上の若い女性刑事が主人公です。全体の流れは真っ当なサスペンスと言えるでしょう。まともな人格を持ったデキる刑事が主人公で組織のメンツだけで仕事をしている上の連中とは一線を画した独自の捜査で核心に迫って行く・・・というのはわりとありがちな王道な流れ。最後は見事に事件解決!のようでいて、その先に強烈なオチが待ってます。これを大どんでん返しと表現して良いのかわからないけれど、そのオチがとにかく最高であり最悪なんです。

そのラストは好みがわかれそうではあるけれど、俺は『ウマい』と思えました。同じ作者の『メリーゴーランド』でもラストがウマいと思ったけど、これも全然違うタイプの『ウマさ』を感じましたね。小説や映画などの物語はやはりラストをどうまとめるかってすげー大事だよなぁ。そこがウマい荻原氏は小説家としてかなりの強みを持っていると思います。

ラストがウマいと読み終わった後に他の人の感想が訊いてみたくなるなんだよな。本作は妻のケイコさんも読了しているんだけど、読み終わった直後にネットで他の人の感想を読み漁ってなー。俺もあとで見てみよう。みんなコレ読んでみてよ。そんで感想が訊きたい。
テーブル下


 ■[ Books ] 2007/05/06 [ Sun ]



☆スラムダンク (1〜31) [ 井上 雄彦 ]
スラムダンク

ええ!? 今更!? と言われそうだけどもしょうがないじゃん。はじめて全部ちゃんと読んだのがつい先日なんだもの。これまで井上氏の漫画はバガボンドだけちゃんと読んだことがあり、その時点で天才だと思っていたのだけれど、これを読んでその思いがさらに強くなりました。

正直、読む前はたかが高校生の部活の話だろ?と思っていた。まあ、確かにそのとおりなんだけど、全ての登場人物が魅力的なので『たかが学生の部活』とわかっていながらも、物語の世界にグイグイ引き込まれていきました。これは本当に面白い!

主人公桜木花道の素晴らしすぎるキャラクター。そして脇を固めるチームメイトたちのキャラクター。全ての人物が見事なまでに描き分けられていて、それぞれ違った素晴らしい魅力を持っています。

花道はバスケットボールはまるっきり初心者で、憧れのはるこさんの気をひく為に入部したという中途半端な男のように見えるけど、彼はバスケを続けていくうち純粋にバスケが好きになっていきます。自分なりに頭を使い、常に『どうすればうまくいくか』を考え、『今の自分が出来ること』を最大限引き出そうとするその姿が何よりも爽やかでカッコイイ。

主人公が努力する様を描いたスポーツ漫画は数限りなく世の中にあるけれど、本作は『スポ魂』と言うほど暑苦しくない全く新しい描き方に成功した最初の漫画なのではないでしょうか。本作で活躍するキャラクターは花道を始め全てが爽やかで清々しい。しかもそれは決してわざとらしくない爽やかさ。本当に読んでいて気持ちがいい。

さらに試合の描き方もウマい。初心者花道が試合を重ねる度に成長し、チームがどんどんひとつにまとまっていく様子を見事に描き出しています。バスケットボールを題材にした漫画はコケるというのがそれまでの常識で、本作も連載を始めるときに作者の井上氏は編集者にかなり反対されたらしいですね。だけれど、その心配を良い形で裏切り、それまで成功するのが難しいとされていたバスケ漫画をこれだけ魅力的に描いたのは本作が最初でしょう。やっぱり井上氏は天才だよ。

女の子にモテたいからはじめたバスケをどんどん好きになっていく花道。そして彼は純粋にバスケットマンとして成長していき、さらにバスケットを通して人としても成長し、自分のことだけでなく仲間のことを思いやり頑張る姿まで見せるようになる様は本当にステキすぎる。

それに加えて一時自分を見失っていた三井の再生、誰よりも全国制覇を夢見て頑張ってきた赤木やメガネ君の直向な姿、天才として描かれている流川ですら精神的な成長をしていく描写がしっかりとなされています。出てくる連中がみんなイイヤツばっかりなのに読んでいてちっとも嫌味が無いのは何故なんだろう。これは本当にすげぇええ。

ただ、せっかく張ってあった多くの伏線が未消化のまま終わる部分が存在するのが残念。もともとはもっと先まで描くつもりだったのは明らか。だけれど、31巻まで6年の連載を続けてたった4ヶ月しか話が進まなかった為、意図的に一度終わりにしたみたいですね。それでもちゃんと最後は綺麗に終わっている辺りがまた井上氏のスゴイところ。

本作は打ち切りなんていう言葉とは全くの無縁で、最高潮に盛り上がって終わる。だから、こそ伏線が張りっぱなしになった部分やその後の花道やその仲間たちの姿を見たいというファンは多いでしょう。俺ももちろんそのひとりです。だけど、このまま終わってしまっても良い様な気もしてます。最後の花道の『天才ですから』という言葉を読んで最高に爽やかな気持ちになれたから。

もし、つい先日までの俺のようにまだ本作を読んだことがない人がいたのなら、それは人生の大きな損失のひとつだと思えるほど、超名作。
テーブル下


 ■[ Books ] 2007/05/06 [ Sun ]



☆リアル (1〜6) [ 井上 雄彦 ]
リアル

先日、スラムダンクを全巻読んでこちらも読みたくなり、現時点で最新巻である6巻まで一気に読みました。やややや、これもまたすげぇ面白い! なんなの井上雄彦って人は!

本作はスラムダンク同様にバスケットボールを題材に持ってきているけれど、同じバスケでもこちらは車椅子のバスケットボールの話です。そして大きな違いはそこだけでなく、バスケというスポーツそのものを描いていたスラムダンクに対し、こちらはバスケをあくまでも触媒にして人間を描くことを目的としている点だと思います。

6巻まででメインとなるキャラクターは3人。骨肉腫で片足を失った戸川、交通事故で下半身麻痺になった高橋、そして自分は健常者ながらもバイク事故で後ろに乗せていた女性を下半身麻痺にしてしまった野宮。3人とも10代の若者です。彼らはそれぞれの『現実(リアル)』を、そして自分自身を探している。バスケという共通の触媒を通して、それぞれの『現実(リアル)』をどう受け止めていくのか、それが本作の最大のテーマとなっています。

本作は井上氏の作品でいつも重要な位置を占めるテーマが凝縮されたかのような物語だと思います。スラムダンクにおいては、主人公桜木花道が初心者であるにも関わらず、チームを勝利に導くために『今の自分が出来ること』を最大限の努力で引き出そうとするし、宮本武蔵を新しい切り口で描いているバガボンドにおいては、主人公武蔵が人として成長するために、『今の自分が出来ること』を命がけで模索していく。

そして本作の主人公3人は、まだハッキリとわからない自分の目指すモノや、自分の目の前に突きつけられた現実をどう受け止めるか迷い苦悩しながらも、『今の自分が出来ること』をそれぞれのやり方で模索していく姿を描いています。

本作の中で、『今の仕事は他にある目標を実現するために金さえ稼げればそれで良い、だからこんな仕事は自分にとってどうでも良い』と言い切る連中に対して野宮が口にする科白がとてもとても印象的。

彼は言います。

『俺は何を目指すのかすらまだみつかってねーや。でも、だからこそ、今を生きることにした。おめーが踏みにじっている今を。今いる職場がつまんねえ職場だろうと俺の道であることに変わりはねぇ。俺のゴールにどうつながるかは知らねえが、いつかつながることは確かだ。』と。

今のまだ自分が納得できない苦しい状況は、その先にあるかもしれない『納得できる自分』とは決して切り離されているわけじゃなく、地続きになっている。今を踏みにじるヤツはきっと未来だって踏みにじる。本作はそんな多くの人が分かっていそうでわかってなくて、気づきそうで気づかないそんなコトがメインテーマになっていんだと思います。

それは井上氏の代表作であるスラムダンクやバガボンドにおいても形を変えて登場してきたテーマです。それをもっともストレートに表現しているのが本作なのではないでしょうか。

俺は過去に自分が納得出来ない環境で2年間働いていました。自分が目指すのはここじゃないって感じるところで2年間ガマンして働きました。そこで働くことは本当に苦痛でした。何とかしなくてはいけないと常に考えていました。そこにダラダラといたら転職出来る機会を失い、労働条件の悪いまま、収入が苦しいまま年をとってしまうと思っていました。きっと収入も環境も大差ない会社を点々とする結果となるだろうと。

だからといってそこで過ごした2年は無駄だとはこれっぽっちも思ってません。自分にとって次に進むためにはその2年間は絶対に必要だった。そこで学ぶべきことは多かった。そこでの仕事は苦しかったし、そんなところでしか雇ってもらえなくなるまでダラダラとフリーターをしていた自分を後悔しない日は無かったけど、目の前にある仕事は一生懸命やりました。それはここでの経験は絶対に将来につながっていると思ったから。地続きだと思ったから。

そして資格を取り、今の職場の募集を見つけた。そのチャンスは絶対に逃しちゃいけないという自分の声が聞こえた。それは確信に近いモノだった。だから前の職場の経営者に今やめるなら転職先に嫌がらせをしてやると言われても諦めないで土下座までした。社員にやめることを話したら滅茶苦茶非難されたけどガマンした。

確かにそこでの仕事は辛かった。納得なんかしてなかった。そこで働いている人たちは仕事を一生懸命やっている人たちだったけど、盲目的に本当に『今』しか目に入っておらず、地続きになっているその未来を意識して話をしても通じる相手じゃなかった。

俺はどんな状況であれ、今を一生懸命に生きることは大事だと思うのは彼らと一緒だけど、ただ闇雲に一生懸命に生きてればそれで良いとは思わない。盲目的に必死で生きて、自分が捕まえなくてはいけないチャンスを逃すわけにはいかない。その点は最後まで理解されなかったと思ってます。きっと彼らに言わせれば、会社が一番忙しい時期に重なって辞めていった俺は最低最悪な無責任男なんだと思う。

今でもそこの職場は劣悪な環境だったと思っているし、会社として相当低レベルなところだと思っているのも変わりがないけど、俺はその先の自分を得る為にそこでの経験そのものは絶対に必要だったと思って大事にしているし、そこでの出来事は今の状況と地続きになっているからこそ一生懸命やっていたと思っています。

だから決していい加減な気持ちで働いていたわけじゃない。ただ、盲目的に目の前のことをこなすためにチャンスを逃したのでは一生懸命やっていた意味が無くなるから、ハッキリと感じ取ったチャンスの時を無駄にしないためにそこからの引き際を見極めて行動しただけ。前の職場の人にはきっとそこは理解されてないし、これからも理解されない。理解してもらおうとも思わない。そこにいたのはそういう人たちだった。

・・・・・話がそれまくったけど、本作『リアル』においての野宮の科白は過去の俺のそういう経歴をフラッシュバックさせたんです。そして心がものすごく共鳴しました。だから読んでいて本当に心が震えました。

『今を生きること』というのは小説や映画、漫画などで多く題材にされてきたテーマだと思うけれど、その言葉が持つ意味を深く理解し、伝えようとしている物語はそんなに多くない。けど、本作はそれをしっかりと伝えようとしているように感じるほど、素晴らしい漫画だと思います。これから先、どんな『リアル』が描かれていくのか目が離せません。

ただ一年に一冊しか新刊が出ないこのペースはなんとかして・・・・。
テーブル下


 ■[ Books ] 2007/08/15 [ Wed ]



☆そのときは彼によろしく [ 市川 拓司 ]
そのときは彼によろしく

かなり読み終えてから時間が経ってしまいました。読み終わったのって多分6月くらいじゃないかな。とりあえず非常に面白くなかったです。なんじゃいこりゃあ。俺は映画や小説などにそれほど辛口の方じゃないと思っているんだけど、これはいただけませんでした。非常につまらん。

あらすじはこんなん。水草専門ショップを営む主人公のもとにバイト募集の告知を見た美しい女性が尋ねてきて雇うことになる。その後、主人公の少年時代の親友との話が絡んできて、それが彼女にも関係してきて・・・・という感じの話。

基本的には日常の中で突拍子も無い事件が起こるわけでもなく、さりげなく物語が進行していくんだけれど、まず気になったのは登場人物の科白の数々。本当にわざとらしく、無意味に気取っていて激しくリアリティーに欠ける為、ちっとも心に響かない。静かな日常の中でそんなこと言わねぇよ、と登場人物が会話を繰り返せば繰り返すほどどんどん白けてしまいました。

さらに、ラストに近づくにつれてファンタジックな展開になっていくのは良いのだけれど、その理由付けがあまりにも曖昧で、夢見がちな妄想乙女みたいなノリになっていくのが読んでいて非常に気色悪かった。これはハッキリ言って中学生レベルの思考で考えられた世界だよ。

こんな幼稚な小説を最後まで読んでしまった自分が好きです。これって映画になってるけど、この程度の話を何故映画にしようと思ったのか激しく謎・・・・というか、支離滅裂で幼稚極まりない携帯小説が書籍化、映画化される今日この頃だから別に不思議でもなんでもないのかな実際は。

とにかくこれはちょっと受け付けませんでした。
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